いつからかはもう忘れてしまったけれど、僕は幻覚が見える。 とは言え四六時中見えているわけでもなく、幻覚と言うよりは取り憑かれているのかもしれない。 でも僕以外の存在にはソレを知覚することは出来ないらしいので、やっぱりこいつは幻覚なんだろうと思う。 『魔物を狩って人間を守るのがお仕事かい。それでも半魔の存在かい。半分とは言え誇り高き吸血鬼だろう』 ―でも残りの半分は人間なんだ。魔物になれない僕は人間に手を貸すしか生きる術がない― 『そう言えば呪われたんだった。自業自得で呪われたんだった!こいつはとんだコウモリだ』 ―君は自分の背中についているものをよく確認してからものを言った方が良い― 『やあ、これは吸血鬼の翼だ。とても美しいね。羨ましいかい』 ―歯止めを知らない君が羨ましくて実に不愉快だよ― 腹を抱えて笑うソレが実に不愉快だ。 長い髪。コウモリのような、竜族にも似た翼。鋭く尖った爪と牙。僕と同じ顔。同じ声。 どうやらこの存在は、僕が普段は押さえていたはずの吸血鬼としての血が何かしらの原因で漏れ出した結果の産物らしい。 魔物の目線からしかものを考えず、発言もしない。 人間として、そういう風に思い込んで生きている僕を嘲り笑うのが趣味と特技。 自分の存在について思い悩むときには必ず現れるし、任務の最中にも直後にも現れる。命を奪った後に現れる。 『今日は人間を殺したのかい。それなら魔物になったらどうだい』 ―君は仲間が欲しいだけだろう。寂しいだけだろう― 『それは君とおんなじさ!実に愉快だね!』 ―奇遇だね。実に不愉快だよ― 『今日は魔物を殺したのかい。高尚な仕事のコウモリだ』 ―あぁ五月蠅いな。これが仕事なんだ― 『さっき彼らがなんて言って死んだか教えてあげようか? それはきっと心に響くはずさ!』 ―五月蠅いって言ってるだろ! そんなことわざわざ言われなくても― 『しにたくない! いたい! やめて!』 ―あぁもう黙れ! それ以上― 『うらぎりもの! だってさ!! 裏切るも何も、どちらでもないのに! ただのコウモリなのにね! 実に愉快だ』 ―実に不愉快だ!― 『さぁ、今日もお仕事をしよう。殺して殺してより残酷に、面白可笑しく生きていこうじゃあないか。ずっと一緒に!』