「あんたん家・・・・・・行っていい?」



夏休みもまだ1週間目のある日、いつものように図書館で一緒に勉強していたときに彼女がそんなことを言った。
いきなりそんなこと言われても準備してないから家は散らかったままだ。

「いいよべつに。あんたの部屋も見てみたいしさ」

「えっ・・・・・・・」

「なーに?私が入ったら困ることでもあるん?」

「いや、無いけど」
即答したけど嘘だ。

「じゃ、今日はこんぐらいにしよ。あんたん家遠いしさ」

俺は彼女みたいに頭は良くないし、ここは冷房も利いてたから正直まだ宿題続けたかったけど、
今日は風が若干強い快晴の日だったから途中で行きたいところもあった。まだ12時を回ったばかりだ。


「どこ?」

「いい場所。今日はたぶん凄くいい」

「・・・?」

「いくか。ん、帽子」

「ん、あんがと」


図書館を出たところで彼女が小さな体には若干不釣り合いなつばの大きい夏帽子を被る。真夏の日射しは彼女には厳しい。

「どお?」

真っ白なワンピースとおっきい夏帽子の彼女は俺には眩しすぎた。


「うん。かわいい」

「えへへっ。ほら、行くよっ」
彼女は少し乱暴に自転車の荷台に腰掛けた。荷台と言っても俺が後から無理矢理つけた彼女専用の座席なんだけど。
やばい、なんなんだこの恥ずかしさは。

「しっかり掴まった?」

「逃がさんよ、ふふっ」
そう言って俺の腰をぎゅっと掴む。少しこそばゆいけど嬉しいから、いい。

「日射し大丈夫か?腕痛くないか?」

「クリーム塗ったから大丈夫」


よし、じゃ行くか。





街を出て田んぼに囲まれた細い道をゆったり進む。
日射しは強くて俺も彼女もすぐに汗だくになるけれど風も吹くから大丈夫、彼女はしっかり俺を掴んで離さない。

「雲すごいねー、あんなにおっきい」

きれいなほど真っ直ぐな道の先、彼女の指さす先の遠くの空には入道雲が浮かんでいた。
吹く風の方向にゆっくり流れてる。

「夏だもんな」

「私ね、小さいときに飛行機乗ったことあるんよ。夏にね」

「へぇー、すげぇ。金持ちやな」

「夏やからあんな雲も沢山あってさ、窓から外見たらあんな大きな雲のすぐ横とか真上飛んでんの。凄かったよ」

「へぇー・・・・・・自慢すんなっ」

「ふふっ。だからさぁ、いつかあんたと一緒に見てみたいな」

「・・・・・・あ・・・・うん、そうやな」

そこでもう一度空を見上げてみた。空と雲もいいかもしれない。道も真っ直ぐだし。

「・・・・・後ろに車おる?遠くまで」

「んー・・・おらんよ、どうしたの?」

「・・・よし、少し降りて自転車と一緒に車の真ん中立ってみ」

「?」

「いいからいいから」

彼女と自転車を車道の真ん中に立たせてから俺は少し離れてバッグからカメラを取り出した。

「なにそれっ、カメラ?デジカメ?」

「うん、動くなよ。今が一番いいから」

彼女が狼狽えだした。
「ちょ、ちょっとっ、恥ずかしいってバカ」

顔隠すなって。大丈夫、かわいいから。

「・・・ばか」
観念したみたいで髪を入念に弄ってから照れながら怒ったような変な顔で俺を睨んだ・・・・・・まあいいか。


カシャッ。


「どおどお?」

「ん」
いい感じ。人真ん中に入れて撮ったんは初めてやったけど。

「・・・・・おぉ、背景いいかんじやね。本の挿絵みたい。うまいじゃん」

「そう?よかった・・・・・・よし先行くか」

「ん・・・・・・・・あんたさぁ、写真撮るの好きなん?」

「・・・・・まぁ、下手やけど」

「へぇー、かっくいいっ」

「分かった分かった、・・・ほら、乗れ」

「ん、・・・いいよ」

「ん、いくぞ」
風が追い風になった、先は緩い下り坂。スピードが少し上がって俺の腰はしっかり彼女の腕に掴まれた。

二人でどっか行くのもいいな。



つづく