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あぁ、流れ行く木の切片よ。 蒼褪めた瞳のような水面よ。 打ちひしがれてはまた引返す。 まるで、波のように。 狂おしいほどの時に抱擁された僕の瞳を癒す術など もう、何処にも無いというのに。 Speed 目覚める事を拒否するかのような酷い頭痛。 覚醒を妨げる頭蓋からの不協和音に耐えてケンは眼を開けた。 酒精の分解に酷使された肝臓が心なしか不満の声を上げているし、 こめかみの鈍い痛みと脳の奥の鋭い痛みが二重奏を奏でている、 というか全身が痛い。 なんだか、厭な予感。 いつもながらの事だけど、飲み終わってから後悔するのだ。 薄手のシーツに包まったまま自分の手に息を吐きかけて、 「…うわ臭っ!」 驚いた。 そんなに飲んだ記憶は無いのだが。 記憶を無くすほど飲んでいる方がおかしいのだが。 相反する二つの思考が立て続けに降臨してきて苦笑混じりにケンは忘却を試みる。 倦怠の心地よさで、たぶん無理だけど。 「ん〜?昨日は〜、何処いったんやっけ〜?」 打ち上げかな? 一人で飲んだのかな? ベッドの中、一人問うて、一人返答する。 どうしても思い出せないのだ。 でも、解答が無いこのままの状態が、とても愛しかった。 ――未だ覚めやらぬ、夢の所為かもしれない。 自分は裸足で歩いていた。 沢山の破片の上を。 それは、「砂」。 摩滅した過去をも示唆するような、残骸。 忘却を咎めるように、足元に絡み付いて、離れない。 そして見える光明。 否、灯火。 足元の砂は影を落として、闇となった。 過去の悔恨か、懺悔か。 渦巻く悪夢にも似たそれらに触れれば冷たく。 自分は走っていた。 砂の上を。 波と風が描いたうねりを足で掻き消しながら。 砂に突き刺さった黒い街灯が、滅んだ町のような情緒を醸し出して、その合間を駆け抜けて。 奇妙な囲いの中で微笑む少女を、ひたすらに見つめていた。 彼女は誰なのだろう。 小さな微笑を残して消えてしまった。 やがて燃えた境界。 そこから去るしかなかった。 緩やかに過ぎていく時の中。 激しく生きていた事すらも心地よい忘却と倦怠へ押しやって、ただあるがままでいられる。 ただ、射し込む光は蒼褪めて見えた。 全てが砂のよう。 掌から優しく零れた砂子は風に散らされて何処かに消え去った。 急ぎ足でも、ゆっくりでも、平等に訪れる未来を暗示して。 ――死。 軽々しく乱用したくない言葉では有るけれど、この世界には満ち溢れているもの。 誰でも、通る道、だ。 だからこそ、ヒトは夢の中で生きる事を、夢想する。 なんでも願いが叶う、自分だけの安らぎだから。 醒めないでと願う。 だから、せめて今だけは。 安らぎを、安らぎと感じられる事を、 深く祈り、享受しよう。
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