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<高校生編>親バカ? バカ親?

<25>

 

乙女の朝は忙しい。 そう、屋根ではしゃいでいるスズメの群れなんかよりも。

「これかな?」

「・・・ドド・・・」

「んー、こっちに合わせたら、やっぱこっちかな?」

「ドド~・・・」

「んー、コンセプトはコッチで決まりなんだけど、ちょっと色が合わないかなぁ?

 うーん、ドド、ちょっとこう、クルっと回ってくれない?」

「・・・ドド!」

いい加減、着せ替え人形にも飽きたドドがうんざりしながらなげやりにわたしの注文をこなす。

わたしに変身しているドドは、立体な分鏡よりもかゆい部分に手が届くので、こういう場合すっごく重宝。

うーん、とわたしは悩める頭を掻いて・・・ ふと、時計を見ればもう残った時間は少ない。

「・・・あちゃっ!! もうこんな時間だよぉ~!!  仕方ない、これで、いくかっ!!」

ドドばかり着替えして、わたしの姿は寝て起きたばっかりのまんま。

素早くドドから今日の衣装を剥ぎ取ると、わたしは急いで着替え始めた。

 

洗面所を占拠し、出撃体制がバッチリ整った後、朝ご飯の為に台所へ。

今日はお父さんも朝早くから釣りに出かけるらしくって、春風家が勢ぞろいしていた。

「おはよ」

わたしの声に、

流し台でコップを用意しようとしていたお母さん。

目玉焼きをつついていたお父さん。

最近、生意気にもコーヒーに目覚めてきて、それを口にしているぽっぷ。

その3人の視線と動きが、止まっていた。

「・・・あっちっ」

ぽっぷの傾けたカップから香ばしい香りのソレがこぼれ、慌ててぽっぷは台拭きを掴む。

それが引き金になって、時は動き出したようだった。

「・・・どれみ、どうしたの?」

お母さんが、まるで人を病気か何かのようなニュアンスの声でそう言う。

「まさか、デートか?」

続くようにお父さん。 『まさか』って自然に・・・。 何さ・・・。

「うん、まあ・・・ デートかな・・・」

と、わたし。 一応、間違っては無い。 胸を張って答えた。

「ま、まっさかぁ~? あはははは?」

と、ぽっぷ。 乾いた笑い声は、お母さんとお父さんにもすぐに伝染した。

「・・・あのね、みんなわたしを何だと思ってるわけ?  高校生だよ? 17だよ?

 デートの一つや二つ、彼氏の二人や三人、そんなの常識じゃん」

家族の反応が余りにも腹立たしかったので、わたしは思わずそう口にしていた。

笑いの絶えたみんなを見ると清々はしたが、心なしか何か大事なものを犠牲にしたような気はする。

「・・・ど、どうしよう? どれみ、ごめんね、今日の朝ご飯思いっきり手抜きで・・・

 な、何か作り直した方がいいかしら?」

オロオロするようにお母さんがエプロンを締めなおす。

「どれみ、その・・・その、だな。  ちゃんと、後で家族に紹介しろよ。 お、お父さんのいる時にな。

 今日はダメだが、オマエが決めた時には、ちゃんといてやるから」

・・・この親達、いつまでたってもこうなんだろうか・・・。

というか、何だかそんな両親の反応がグサグサとハートを貫き始めてきたので、わたしは朝ご飯もそこそこに切り上げ、

席を立った。

「・・・もう、時間無いから出かける。  ぽっぷ、わたしの代わりにMAHO堂、ちゃんと頼んだよ?」

「・・・それはわかってるけど・・・  お姉ちゃん、お姉ちゃんこそ逃がしちゃダメだからね?

 これが最後のチャンスだと思って、絶対喰らいついて離さないような  気合いが必要だからね?

 分かってる? 頑張ってね??」

身から出た錆なので、その後のフォローをどうしようか非常に悩めるけど・・・

今は本当に時間に追われている。

わたしは返事も『ハイハイ』とそこそこに、家族の複雑な視線を一身に受けて玄関を開けた。

 

 

 

待ち合わせは午前8:30の美空駅、美空市民の待ち合わせのメッカ・『さんかく像』前。

さんかく像は、本当はちゃんとした名前のある美空市出身の芸術家なダレソレが作ったモノだそうなんだけど、

わたしは詳しくは知らない。 おそらく市民のほとんども知らないだろう(と、わたしは勝手に決め付けてはいる)。

たくさんの三角形を抽象的に組み合わせて何かを表現しているソレは、みんなの頼りない感受性と親しみを込められて、

普通に『さんかく像』と呼ばれていた。

日曜の朝という事もあって、駅は普段より人が少ない。

だからわたしは、そのあいちゃんをすぐに見つける事ができた。

「おはよー、あいちゃん!」

ちょっと張り切って、道路の向こう側から像の前のあいちゃんに手を振る。

信号が青になり、わたしはスタートを切ってあいちゃんのところまでダッシュした。

「・・・どれみちゃん・・・」

あいちゃんは、なにやら複雑そうな表情でわたしを見る。 たっぷりわたしの姿を吟味した後、遅れて『おはようさん』と続けた。

「エヘ、どう? わたしって分からなかった?」

そう言って、わたしはドドにやらせたように、クルっとその場で一回転してみせた。

「いや、わからないってゆうか・・・  ・・・誰のデートやねん?」

くっくっく、とあいちゃんは苦笑。

「・・・そ、そりゃあ・・・ ハナちゃんのデートではあるけどォ・・・」

そう、今日はハナちゃんのデート、監視大作戦の日。

みんなそれぞれ、『ハナちゃんにバレないようなカッコウ』をしてこよう、と決めたのだ。

敢えて魔法による変装じゃないのは、この前のようにドジを踏む可能性を考慮して。

今度人前で魔法が解けるのを見つかったら、言い逃れはできないだろう。 

しかも、ハナちゃんの相手はその道の人なんだから。

という理由もあるにせよ、おおよそは面白半分が混じっているのかもしれない。

わたしの場合―

今日はお団子をほどき、ツインテールにして両サイドから流している。 

付け根には黄色の水玉のリボン。

服はちょっとロリっぽさをイメージして、フリフリが多いのを選んだ。 

黄色のシャツに、黒のベストを上から。

スカートは超ミニの、フリル付き赤。 白の水玉入り。 

これ、買ったのすごく前だったから入るかどうか焦ったけど、何とかなった。

黒のハイソックスでぴちっと足を締めて、小物はお気に入りの羽チョーカーと・・・

「じゃん、度無しの丸メガネも持ってきたよっ」

と、わたしは肩掛けのポーチからそれを出して、装着してみる

「どう? 似合う? やっぱりメガネっこじゃないほうがイケてるかな?」

あいちゃんは微妙な表情をして、頷いていた。

そのあいちゃんの今日の格好は・・・ 

一言で、『男の子』。

ニット帽を深くかぶって髪を隠し、後ろ髪はひとつに束ねている。

スカジャンをぴっちり着込んで、下はあいちゃんのトレードでもあるジーンズ。 

そしておっきなスニーカー。

バックパックは背負うんではなく、右肩に引っ掛けるようにぶら下げて、両手はポケットの中。

小物は、首から下げた羽のペンダント。 

これは、わたしのチョーカーと同じデザインの奴だ。 中学の修学旅行のときに一緒に買った。

「わたしとあいちゃんが腕組んで歩いたら、バッチリカップルだね」

「略して、バカップル・・・。 泣けてくるくらいにそのまんまやな・・・」

それもそうか、とわたしは苦笑し、後もう一人の隊員の姿を見渡して探した。

わたしたちが微妙に変装決まってるんで、ひょっとしたら分からなくてスルーしてるかもしれない。

「じゃ、みんな揃ったことだし、いきましょうか?」

突然、はづきちゃんの声が傍で聞こえて、わたしは吃驚して振り向いた。

隣には、OLだろうか、ビシっとしたスーツ姿のお姉さんが立って・・・

「・・・どうしたの、どれみちゃん?」

にこ、と面白そうに、お姉さん・・・いや、はづきちゃんは笑う。

「あっはっは、どれみちゃんも全然気ィ付かんかったやろ??  アタシもそうだったわ。

 今日の変装合戦は、はづきちゃんの一人勝ちやな」

あいちゃんの言葉を聞いて、わたしは改めてはづきちゃんを見た。

いつものポニーは解いて、後ろ髪はサラサラと流している。 

前髪も二つに分けて横に止め、それだけでいつものイメージから遠のく。

メガネは無い。 どうやらコンタクトを入れているようで、しかもきっちりメイク。

リップのピンクがきつくもなく、それでいて溶け込んでもいなくてすごく大人というか・・・色っぽい。

下はさっきも言った通り、まるで今から出社するかのような淡い桜色のスーツ姿。

グレーのストッキングに、赤いハイヒール。 

ああ、このヒールでちょっと背が高くなってる気がしたのか・・・。

「ウフッ。 じゃあ、いきましょうか」

お姉さんの言葉に頷いて、わたし達は颯爽と・・・戦場に繰り出した。

 

 

 

そして当のハナは・・・。

迷っていた。

これは、デートをするかどうか、という、そのような迷いではなく。

「ねえ、トト・・・。 どうしよう? どれがいいと思う?」

そう言いながら、魔法で既に何着目を身に纏ったであろうか。

その、今日の勝負服にである。

遺伝ではないだろうが、これが母子だ、と、どれみが見ていたら顔を綻ばせて頷くところだ。

アドバイザーにされたトトは、いい加減頬杖をついてため息を漏らした。

「・・・ハナぁ・・・ もう、どれでもいいよぅ・・・」

「そんな・・・ どれでもいいって言うわけには、ならないと思うけど・・・」

物凄く不安そうな顔を見せて、ハナは振り返った。

「どうでもいいけど、それはパーティードレスでしょぉ?  ・・・もう、別に相手は服を見に来てるんじゃないんだからさぁ。

 普通でいいよ、ふつーで」

時間も無いし、とトトは部屋の時計を指差して告げた。

「ふ、普通と言われても・・・。 はづきが言うには、私は伊東さんと毎日会ってる訳だから、こういう日こそ

 いつもの私ではない私を見せた方が、いいって・・・」

「だからって、そんなに悩むことないんじゃない~?」

「でも・・・」

ハナは自分の服を、魔女服と制服の他に持っていない。

後はすべて魔法でどうにでもなる。 選択幅は、無尽蔵なのだ。

故に、それが逆にハナを悩ませていた。

ハナが選ぶ服は、ハナのセンスと直結している。 言い訳は、許されないのだ。

「トト、おなかすいた・・・」

もはや頼りにならないコーディネーターに向かって、ハナは居間のテーブルを指差す。 

そこには既にルームサービスの人が朝食を置いていってあった。

トトがひゅーっと飛んでいっている間にも、ハナの慣らす指の音とうめきが、何回も聞こえていた。

 

 

 

そして。

伊東が何回かチラリと見た時計は、約束の10時を過ぎて20分を指そうかとしている。

待ち合わせ場所は、赤坂見附の地下鉄駅口前―。

先日、車で案内しているし、何よりハナの暮らしているホテルから近い。 

迷う必要はないのだが・・・と、半分心配で首を持ち上げた時・・・。

「す、すみませーん!」

と、臆面無く大きな声で叫びながら、周囲の通行人の視線を一身に浴びてハナが走ってくるところだった。

伊東は思わずポカンと口をあけ、そして・・・。

ハナが息を弾ませて目の前にくる頃には、笑いが漏れていた。

「ご、ごめんなさい、お待たせしました・・・。  その・・・待ちました? 待ちましたよね・・・」

伊東はまだクックックと漏れる声を殺して、苦しそうに答える。

「・・・い、いや・・・。 待ってません。 待ってませんよ。  私も今来たばっかりです」

そう、よかった、と言ってハナは胸を撫で下ろした。 上がった息を整える為かもしれないが。

「・・・な、なにか? 何か・・・おかしかったですか?」

「いや、それは・・・。  いやね、普通は・・・というか、日本の文化として、今のやり取りは・・・  逆なんですよ」

「逆?」

「あはは・・・。 そう、逆です。  申し訳ないんですが、本来なら私がハナさんをちょっと待たせて、

 『ごめん、待った』と言いたかった。  『全然待ってない、今来たところ』は、ハナさんに言ってほしかったなぁ」

そうなんですか、すみません、とハナはバカ丁寧に頭を下げる。

伊東はますます可笑しくなって、早くも今日のデートが『楽しかった』と日記に書けるような思いを感じていた。

「・・・にしても、ハナさん・・・。  ハナさん、意外に大胆ですね」

「・・・えっ・・・?  あっ、その・・・ あの・・・」

ハナは伊東の視線が何を見ているのかを読み取り、さすがに真っ赤になった。

「・・・や、やっぱり・・・おかしいんですか?  こういうの・・・」

ハナは自分の最終審判によって文字通り『決着』した服を手探りで見下ろす。

それは結局自分のイメージではなく、部屋の窓から見える『これだ!』という通行人の服を真似てしまったものだが・・・。

「いやぁ、おかしくはないですよ。  ハナさんはスタイルもいいし、そういうの結構似合うんだなぁ、と思ったり。

 そこまでサービスして頂いて、私は随分ラッキーというか幸せものというか・・・。

 でも、スタイルはともかく、なんとなく・・・  ハナさんの雰囲気的に、ボディコンスーツは似合わないかもしれないなあ」

伊東が目のやり場に困るように、あらぬ方向を見ながら言う。

ハナの選んだそれは、長くてしなやかなハナの肢体をこれ見よがしに強調するモノだった。

「・・・す、すみません・・・。  勉強不足でした」

最早耳まで真っ赤になって、ハナはうなだれる。

「いえ! 男としては、最高です。  今日一日、そんなハナさんを独り占めできると思うと、こう、子供じゃないですけど・・・

 ワクワクしてきますね!!  さ、いきましょうか? ハナさんのご希望通りのコースを案内しますよ」

伊東は自然に、ハナに向かって手を出す。

ハナは小さく頷いて、その手を取った。

 

 

 

「・・・ちょっと、なんなのさ!」

わたしは思わず、あいちゃんの押さえが無ければ今にも飛び出しそうだったわけで。

「まあまあ、まだ早いっちゅーに。  にしても、こんな早くも突込みどころ満載な展開を見せるとは思っても見なかったわ」

あいちゃんの声にも、やや何か熱いものを押し留めた雰囲気が篭っている。

「『待ったー』とか、『いまきたとこ』とか・・・!  何でそんなの経験しちゃってるのさ!

 おかしいよ! これ何?  どうしてあの『伊東』サンっての、あんなにカッコイイわけ?

 ずるいよ!! も、ほんと、ズルイよぉ!!」

たった数分だけの、ハナちゃん達のやり取り。

それだけの中に、わたしの心から溢れるものは既に臨界を軽くオーバーしてどんどんあふれ出ている。

今度ははづきちゃんがまあまあ、とわたしを制して、言った。

「・・・とりあえず、なんか楽しそうでいいじゃない。  もうしばらく、見守ってあげましょうよ」

なんとなく、地獄を見せられそうな予感はある。

「・・・はづきちゃんはええわな。 余裕あって」

ポツリ、とあいちゃんがこぼす。

「そうだよね。 はづきちゃんには既に矢田君がいるもんね。

 ・・・わたしらの気持ちなんか、分からないよ」

「・・・あ、ほ、ほら! 行っちゃう! さ、早く追いかけましょう!  ささ、早く早く!」

明らかに何かを誤魔化すような口調で、はづきちゃんは一人物陰から身を出した。

わたしとあいちゃんは目を合わせ・・・ 無言の結託をして、はづきちゃんの・・・

いや、ハナちゃん達の後を追った。

 

 

 

 

 

 

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