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<高校生編> Seven colors、再び

<4

 

鍋の蓋がコトコト鳴っている。 魔法堂のキッチンで聞こえる音は、それだけだ。

さっきまではアタシとあいちゃんで色々喋っていたんだけど、さすがにこう時間が過ぎるとネタが尽きてくると同時に不安にもなってくる。

わたしはもう何度目かだろうか、携帯電話の画面を見た。 着信も無い。 時間も・・・8時を回った。

「鍋、もうええんちゃう?」

あいちゃんが蓋を取る。 もわっと、シチューのいい匂いと白い水蒸気が溢れ出した。

「うん、もういいよね。 それにしても・・・」

わたしはあいちゃんとそれ以上言葉にせず、切ない表情を作って(というかどうしてもそうなる)お互いに肩を落とした。

『みんな遅いなぁ』の言葉。 

もう何回も口にした。

はづきちゃんにも携帯で連絡をとり、帰りこっちに寄ってくれる事になっている。

電話の声はかなり嬉しそうだったから(当り前か)すぐに来ると思ったんだけど、まだ来ない。

ぽっぷは一度ここに来て、この『ハナちゃんお帰りパーティー』に必要なお菓子とかを買ってもらいに買い出しに出かけている。 

が、もう一時間は経っている。 遅い。

おんぷちゃん、ももちゃんはアメリカなんだけど、一応パトレーヌコールを入れておいた。 

向こうは多分夜。 本人達が気付いてなくても、妖精さんが気付いてくれてればいいんだけど・・・。

そしてハナちゃん。

・・・わたし達と別れて、かれこれもう10時間は経つ。 

校長室で何の話をされてるのかは具体的には分からないけど、それにしたって長すぎる

ってゆうか遅すぎる。

何度も様子を見に行こう、と思ったりあいちゃんが提案したりしたけど、ハナちゃんの別れ際の言葉がどうしても頭に焼き付いてて、

なんだか邪魔してはいけないような気持ちになっていた。 

だから、黙って言われた通りにMAHO堂で待つようにしていた。

ハナちゃん、一体何をやっているんだろう。

遅い、という理由からもそうだけど、ハナちゃんは明らかに人間界に戻ってきて、何かをしようとしてるように見える。 

それを絶対に聞いておかないと・・・ね。

「飾り付け、終わったわよー」

ひゅいー、とララ、そしてドドとミミがキッチンに飛んできた。

「うん、こっちも出来た。 ・・・ってドド!! つまみ食いダメって!!」

わたしは鍋に寄ったドドを、ぴちっと指で弾く。

「ドドー!! ドドド・・・」

しょんぼりした顔で、ドドは呆れ顔のミミの元にふらふらと戻った。

ドドもミミも、まだ相変わらず言葉は喋れない。 ララ曰く、『妖精が言葉を喋るのにはあと50年は必要』だそうだ。 

私がおばあちゃんになってようやく、というのはちょっと悲しすぎる。

だけど、姿は最近一段落成長した。 パトレーヌパソコンに入った時に見えた、ちょっと大人っぽい姿に変わったのだ。 

大人っぽくなったのはいいけど、ドドの中身は相変わらずなのだ。 

・・・それはわたしの中身も相変わらずだ、というのと同じだ、とマジョリカは言っていた。

「ま、とりあえずテーブルをカンペキにしておこか。 向こうで待とうや」

「うん、そだね」

テーブルに足りない最後のメニューをお皿に盛って、わたし達はがっちり飾り付けされた魔法堂のフロアに戻った。

「よし、とりあえず準備OK」

見栄えバッチリ、料理バッチリ。 ハナちゃんもご満足、だろう。

「それにしても、オマエ達本当にこういう事には魔法使わんなあ」

椅子に座って新聞を広げているマジョリカが、苦笑しながら言った。

「当り前でしょ。 こういうのはね、真心が必要なの。 マゴコロ」

「魔法にだって、込めようと思えばいくらでも心はこもるじゃろ?」

「わかってんねんけど、やっぱ、なぁ。 アタシらどうしても人間界のモンやねんから、人間らしゅう行為でやってまうんや」

「・・・フン・・・ まあ、そういうところがいつまでも『おジャ魔女』なんじゃの」

呟いたマジョリカの口元は、笑っていた。

 

その時、カランと玄関ベルが鳴る。 

今日はもうクローズにしてあるので、入ってくるのはお客さんではない。

「ちーっす!!」

元気のいい声が店内に響き渡った。 

・・・というか、その声をこの店内で聞けたのは何年ぶりだろう?

5年か。 そだ、ずっと数えてたんだから忘れるハズがない。 

丁度、5年・・・  その5年前のハナちゃんが、そっくりそのまま玄関に右手を上げて立っていた。

「・・・」

一瞬、言葉を忘れた。 

当然、『ハナちゃん!!』と言ってガッチリ抱擁したいところなんだけど、今目の前にいるハナちゃんは朝会ったハナちゃんとは違う。

朝にあのハナちゃんに会ってなければ間違いなくこっちが本物なんだけど・・・と、私は今日二回目の大混乱。

「ハ、ハナちゃん?」

最初の一声は、あいちゃんに先を越された。

「ドド!!?」

「ミミミ!!?」

ドドとミミが目を丸くしてわたしら以上に驚いている。

「あははっ、ドド、ミミ! 久しぶりだねっ!!」

ハナちゃんはとてとてと、あんぐりしているマジョリカや棒立ちしているわたしの前を平気で通り過ぎると、

何故かドド達と感動の再会を演出し始めた。

何が、何だか・・・

「あ、あなた・・・ トト!??」

ララが露骨に指を指して大声を上げる。

「はい♪ ハナの妖精、トトでーす!!」

と、6年生ハナちゃんは再び元気よく手を上げた。

「・・・ええええええええええええええ!!!!???」

それがまるでオーケストラ指揮者の合図かのように、わたしらはそれに合わせて合唱する。

「ドド!! ドドドドド!! ドド!! ドドドドド!!?」

ドドが猛烈にまくし立てている。 ざっと通訳してみると、

『なんで?? なんでなんで? どうしてそんな成長しちゃってるわけ? 

 なんで言葉が話せるの?? ちょっとどうしてよ?!』

といったところだろうか・・・。 さすがにご主人様の代弁はきちっと成しているようだった。

「なんで、って言われても・・・ ハナが成長しちゃったんだから、トトも成長しちゃうんだよ」

口に人差し指を当て、無邪気に首を傾げる仕草なんかは、丸々5年前のハナちゃんを見ているようだった。 

懐かしくて今の本当のハナちゃんの姿が霞む。

「・・・しかし、妖精がこんなに早い段階で成長するとは・・・ ハナの奴、物凄い魔力を持っているという事じゃな・・・」

開いた口がさらに大きくなったような顔をして、マジョリカがそう言った。

「・・・で、どうしてトトだけがここに来たの?」

相変わらずララは状況の整理が早い。 またまた私達はララの冷静さに助けられた、というカンジ。

「あ、うん。 ハナが遅くなるから、トトだけ最初にこっち行ってて、って。 『心配しないで、すぐ行く』って言ってたよ」

「ハナちゃん、今ドコで何しとるんや??」

またまた、あいちゃんに先を越された。

「えっと、今は多分お空を飛んでる」

「・・・はい?」

「みよ君と、さくら子に行って戻ってくるって」

「・・・はい???」

全然分からなかった。 トトはテーブルの料理にすっかり目が行って、今にもかぶりつきそうだ。

「ど、どういう事だろう」

「ま、まあどうやら無事でいるみたいやし、トトもすぐ戻る言うてたし・・・」

わたし達がそういう事で納得(?)したところで、再び2度目のベルが鳴った。

「・・・!!! ハナちゃん!!!!!!」

「ハナちゃんだぁああ!!!!!!! ハナちゃーん!!!!!」

入ってくるなり、感極まってトトに体当たり、じゃなかった抱きついてきたのは、はづきちゃんとぽっぷだった。

 

 

「そ、それじゃあ・・・ 貴方トトなの・・・???」

二人の抱擁というか窒息攻撃というか、とにかくそれからようやく開放されたトトは、

落ち着いた様子のはづきちゃんとぽっぷを前にしてまだゲホゲホむせていた。

「そうだよっ・・・ゲホげほっ・・・ もう!!」

ボム、と大きなハナちゃんの姿が煙に巻かれ、ドド達と同じスケールになったトトがそこにいた。

「ドドー!!」

「ミミー!!」

「ほ、本当だー・・・」

ぽっぷがアングリしてそう言う。 わたし達は特に声にしなかっただけで、やはりぽっぷと同じ様に思ってはいるんだけど。

妖精のトトは、ドド達と比べるとちょっと背が小さいものの、既にララのような姿になっている。

だけどララほどグラマラスではなく、さっきのハナちゃんを本当に妖精サイズにして帽子をかぶっているようなカンジだった。 

一言でいってカワイイ。

「ちょっとみんなをビックリさせようと思って変身しただけなの! もう、はづきヒドイよ。 ぽっぷも」

「ご、ごめんなさい」

はづきちゃんは少し顔を赤くしながらぺこっと頭を下げた。

「ってか、はづきちゃん何気に久しぶりだよね」

わたしはそんなはづきちゃんを眺めながら、そう口にする。

はづきちゃんは前々から大人しそう、というか上品で、お嬢様お嬢様っぽい雰囲気を持ってはいたんだけど、

久しぶりに見た彼女はさらに気品というか、お嬢様っぽさがアップしているように思える。

なんていうか・・・一歩、大人のレディー、という感じだ。 向こうの学校の制服がとても上品なカンジなのもあるけど。

「そうだったかしら? うーん、最近コンクールの練習とかで遅いから・・・」

「コンクール? へぇー、そら頑張らんとあかんなー。 

 アタシも、そろそろインハイ予選に向けて本格的に選手狙わなあかんしなー・・・」

「あいちゃんもそっか、陸上でインターハイ目指してるのよね。 去年はもう少しで県代表だったものね」

「そうなんや。 今年こそ絶対に・・・って、とりあえず部の代表ならなあかんけど」

「私のとこも、バイオリン枠3人だから・・・」

・・・そんな会話の中、わたしは置いてけぼりにされていた。

たまに、感じる時がある。

はづきちゃんにはバイオリン奏者。

あいちゃんには陸上。

おんぷちゃんには女優。

ももちゃんにはパティシエ。

それぞれ夢があって、目標がある。 みんな、それをゴールにして走りつづけているランナーのようなものだ。

それなのに、私は全然見えてない。 自分のゴールが。

小学生のとき、私は漠然と『魔女になりたい』と思っていた。 

今考えれば、それは単なる少女時代の妄想の類に過ぎないことなのだ。 

っと誰もが経験する、子供ながらの大きすぎる、まさしく『夢』。

だけど、私はそれを唐突に叶えてしまった。 私は魔女になったのだ。

・・・『だから?』

いつも考えてるところが、それである。

少女の夢は、『とりあえず何かになりたい』という処止まりであり、『そしてどうするか』を一切視野に入れていないのだ。

私は魔女になって、魔法が使えて、一体あの頃何をしたかったのだろう。

その答えが、未だ見つからない。 

本当に、私は魔女になってよかったのだろうか。 いや、そもそも本当に魔女になりたかったのだろうか・・・。

「どれみちゃん? 何ボーっとしとるん?」

「え? あ、あれ? あたしちょっと物憂げかましてた?」

「物憂げっていうか、ボケとった」

「・・・あのね」

「ウフフ。 本当、二人とも相変わらずなのね」

えへへ、とわたし達は笑いあった。 

・・・たしかに、こういった雰囲気は相変わらずなんだ。 お互いに。 

それはとても暖かく、いいな、と思える。

だけど・・・ 

今のわたしには、『相変わらず』という言葉は少し心にチクリと来る言葉でもあるのだ。 自分が少し切なかった。

「ねえねえ、はづきちゃん! バイオリン、聴かせてよー!」

ぽっぷがはづきちゃんのバイオリンを目ざとく見つけて、そう言った。

「あ、うん。 勿論そのつもりで持ってきたのよ。 ハナちゃんにも聴かせようと思って・・・」

はづきちゃんの言葉で、当人含めみんなは改めて思い出す。

「そういや、ハナちゃんは?」

口にしたのはぽっぷ。

「うん、トトが言うにはもうそろそろって・・・ あー!!!!!」

ちらりとわたしがトトに目をやったら、トトとドドはテーブルの料理に早くもかじりついていた。

「な、なにしてんのあんたたちー!!! ダメって言ったでしょーっ!!」

と、私がまるで料理にたかろうとするハエを追い払うかのようにぶんぶん手を振り回してドド達を追いまわした時、

3度目の玄関ベルが鳴った。

「あ、すみませんー。 今日はもう閉店なんですけどー」

そう答えたのはぽっぷだ。 間違ってお客さんが入ってきたのかな、と思ってわたしは玄関に目をやる。

「・・・ウフフ、お客さんじゃないのよ。 ・・・ぽっぷ、久しぶりね。 ・・・それとはづきママも」

にっこり笑って立っていたのは、ハナちゃんだった。

ぽっぷもはづきちゃんも、一瞬何を言われたのか分かっていないような、

まさしく鳩が豆鉄砲を食らいました、というお手本のような表情になっている。

「おかえり、ハナちゃん。 遅かったから心配したよ」

「ホンマ、あれから一体何しとったんやっ? あんまママを心配させたらアカンて」

わたしとあいちゃんの声があって、ようやくはづきちゃんとぽっぷが我に返る。

「え・・・?? 嘘・・・?? もしかして・・・」

「この人が・・・ ハナちゃん!!!!?」

この人が、って・・・。 ぽっぷのあまりにストレートな言い草に、わたしは思わず失礼な妹の後頭部をポカっとやっていた。

「ええ、私、そんなに変わったかしら・・・? みんながみんな、そう言うんだもの。 ちょっとショックよ。  

 ・・・ねえ、おんぷママにももこママ?」

ハナちゃんは困ったような笑顔を見せながら、開いている玄関の外に向かってそう言った。

「だから言ったでしょ。 きっとはづきちゃんも気付かないって」

「Yes、だからもも達だけじゃナイんだってば」

すごく聞き覚えのある声が、店の中に先に入ってきた。

「ごめんなさいみんな。 本当はもっと早く学校の用事は済んでたのだけど、

 せっかくだからニューヨークとサンフランシスコに行って・・・連れて来たのよ」

ハナちゃんがペロっと舌を出す。

「Hi! Goodevening Eneryone!」

「Yeah,元気シテタ? ミンナ!!」

ハナちゃんに遅れて姿を見せたのは、言うまでもない。  けど、言う。

「おんぷちゃん・・・ ももちゃん!!!」

が、特にハーモニーするでもなく×4の声。

「みんな、一年ぶりだネ!! 去年の・・・Summerバカンスに会った以来ダッケ?」

「ももちゃん、それよりも」

わたしたちに向かって走り出さんとするももちゃんの背中を突付いて、おんぷちゃんが声をかける。

「あ、ソッカ。 Oh、ソウダッタネ。 もも達より、随分久しぶり、な人がいたヨネ!!!」

そう。 そうだった。

元々、今日この魔法堂に飾られているすべてのものは、一体何を意味しているのか。

わたし達は互いに駆け寄り、その5年ぶりに会った、私達の想像を遥かに越えた成長をして帰って来た我等が娘に対して、

精一杯の愛を込めて叫んだ。

 

「・・・おかえり!! ハナちゃん!!!!」

 

そして、全員でハナちゃんに抱きつく。

わたし、ぽっぷ、はづきちゃん、あいちゃん、おんぷちゃん、ももちゃん・・・ そしてハナちゃん。

あの頃の魔女見習いが、こうして全員このMAHO堂に集合するのを待って5年。

それが早いのか、遅かったのかは、わからない。

でも確かに言える事は、

今こうしてみんなが揃っていて、

みんながまだ元気で、

みんながまだあの頃のままに、

こうしていられた日が来た、という事実があって本当によかったと思う事だった。

 

わたし達は、この時ちょっとだけ小学6年生のあの時に戻っていた。

 

 

 

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