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<高校生編> 高校生魔女・ハナ

<6>

 

朝。

今日も天気は4月晴れ。 ・・・ま、まあ意味はある程度理解してよね。

あれだけ花びらを降らせている桜の木も、まだまだキレイにピンク色をしている。 

わたしとあいちゃんは、やっぱり昨日のようにその坂道を二人で歩いていた。

「疲れるよー。 ねえ、坂道ってどうして上り坂があるんだろ? 下り坂だけだったらどんなに楽だか」

「・・・春やなぁ~・・・ 桜もそうやけど、どれみちゃんの頭にも花が咲き乱れとるわ」

「う、やだなーあいちゃん・・・ もっとスタンダードに突っ込んでよ。 わたしが本当にバカみたいじゃん・・・」

「ってか、もう一年以上この道歩いてきて、まだ慣れてないっちゅううんもおかしいで実際」

「慣れる慣れないじゃないの。 慣れても疲れるんだよ、この坂は・・・」

わたし達がそんな箸にも棒にもかからない話を爽やかな朝の登校時の会話にしていると、

「おはようー、どれみ、あいこーっ」

と、上の方から声が聞こえてきた。 俯きがちな首を空に向かせる。

朝の太陽を背にして、制服姿のハナちゃんがにこやかに手を振りながら、ほうきに乗ってわたし達の頭の上を軽やかに飛んでいった。

勿論、登校中のみんなもその姿を見ている。

仰天する者あり、呆然する者あり、何故か追いかける者あり・・・。 

とにかく平然としている生徒は、わたし達だけのようだった。

「くっそー、ハナちゃんめー・・・。 わたしもほうき、使おうかな・・・」

「どれみちゃん、あかんて。 昨日の事、もう忘れたんかいな?」

「・・・。 忘れるわけないよ・・・ そんなの・・・。 言ってみただけだよっ」

「・・・いや、結構マジやった」

「そ、そそそそんなことアリマセン!」

・・・そう。

忘れるわけはない。

 

 

 

魔女界と人間界の交流を再び。

ハナちゃんは、わたし達を前にそう宣言した。

『それはいいね』

『うん、やろうやろう』

もしわたし達が小学生のままだったら、きっとそんな事を言いながらはしゃいでいたに違いない。

だけどわたしを含めてみんな、その言葉の前に軽い笑顔を見せる者はいなかった。

・・・みんな、分かっているのだ。 ハナちゃんが言ったことが、この現実においてどんなに難しい事か。 

それが、どんなに想像できないくらいの物事になる事か、を。

「・・・それは構わないんだけど・・・ ハナちゃん、それがどういう事になるか想像できてるの?

 それに、具体的にどうするかとか、ちゃんと考えてるの?」

さすがにおんぷちゃんは理解が早く、適切な疑問をハナちゃんに一早く放っていた。 ハナちゃんは頷き、続けた。

「・・・勿論、分かっているわ。 私のやろうとしてる事が、どんなに難しく大変な事かは。

 でも・・・これは誰かが必ずやらなければならない事。 魔女界のためにも、絶対に必要な事なの。

 私は今、魔女界で一番大きい魔力を持つ魔女。 そして人間界で育ち、一番人間に近い魔女。

 そして、人間の母親を持つ、魔女」

ハナちゃんはわたし達を一人づつ静かに眺めた。

「だからこれは、私が一番やり遂げられる可能性があるの。 私自身も、やってみたい事なの。

 おんぷ、理由や理屈じゃないわ。 これは・・・やらせて欲しい」

ハナちゃんに強く言われて、おんぷちゃんは黙るしかなかったみたいだった。

「・・・みんなは、人の見ている前で魔法使ってる?」

唐突に、ハナちゃんはそう言った。

その質問には、誰も答えなかった。

「分かるわ。  魔法が人間界にとって、認知されない力なのは分かってるの。

 だから、それを使う者が一体どんな目で見られるかは想像に難くないわ。

 さらにそこからどのような状況に自分が置かれてしまうのか、も、いい事よりも悪い事の方が多いというのも分かるの。

 ・・・それは、今から500年も前にあった事が全部証明しているから」

ハナちゃんの表情からは、もはや笑顔の欠片もなくなっていた。

そこには真剣さと、そして強さと・・・深い悲しさがにじみ出ていた。

「今から500年くらい前。 わたし達は人間に、徹底的に追い出された。

 丁度その時、世界では人間同士の戦争が長く続き、そして慢性的な疫病も世界に広がっていた。

 それまで人間界に住んでいた魔女達は人間と交流していたけど、その影響からか段々迫害を受けるようになってきたの。

 人間はそんな悲惨な世界の運命を作り上げたのは、私達魔女の力・・・魔法のせいだと、思ったのね。

  ・・・勿論、そんな事はないのは分かる。 だけど、人間の目からしたら私達が使う魔法は、

 今でも当時でも人間界の常識を無視した大きすぎる力。

 運命さえ、世界の動きさえ魔法で決められると信じられてしまった。

 すなわち、この絶望の源はすべて魔法のせいだ、と。 その魔法を使う魔女のせいだ・・・と。

 だから私達魔女は、迫害された。  大勢の魔女が、人間によって恨まれ、そして・・・命を無くした。

 だけど、そんな私達よりも何百倍もの無実の人間の方が、その時犠牲になってしまったの」

「それが、ひょっとして中世にあった『魔女狩り』の事・・・なのね」

はづきちゃんがこわばった表情でそう呟いた。

・・・わたしも、それは何とか歴史の授業での記憶に引っかかっていたので分かった。

「人間界の歴史にも刻まれる程、それは大きな事件だったわ。

 魔女界では更に深刻な事態だった。 だから、時の女王様は人間界との交流を締めざるを得なかった。

 魔女を守るためもそうだったけど、本当は魔女のせいで他の人間が犠牲になるのを防ぐためなのよ。

  それ程、私達は人間を愛していたの。

  人間の持つ愛、情、優しさ・・・ その暖かさが、私達は羨ましく、素敵な力に見えていたの。

  丁度人間が魔法の力を欲しがるように、私達もそれが欲しかったのよ。

 ・・・それは、今でも変わらない魔女界全員の願い」

月に雲がかかる。

一瞬、外の世界の影が増した。

「あれから500年。 今、この人間界は平和だわ。

 勿論平和ではないところもあるでしょうけど、あの頃の人間界に比べたら天国のように穏やかよ。

 人間界独自の科学という力も発達し、魔法の力と変わらないような事も出来るようになっているわ。

  ・・・だから、女王様は思い切って試しに扉をほんのちょっと開けてみた。

 そしてここ何十年かの結果を慎重に判断して、人間に魔法の力も使わせてみた。

  そして、最終的には人間界の事をよく知り、人間の心をもち、人間界に繋がりのある魔女・・・

 私という、魔女界の希望を生み出した。

 すべては、魔女界500年の悲願のためよ。

 誰かが人間界で『魔女』を認めさせないと、次の誰かに繋がることはできない。

 その最初の魔女に、私はなる」

雲が晴れた。 

再び月明かりがハナちゃんを照らした時、ハナちゃんは穏やかに微笑んでいた。

「今度は500年前のように、犠牲は出さないつもりよ。

 だからみんな・・・水晶玉は、一旦返して欲しいの。

 ・・・魔女を、しばらく止めて欲しい。 そして、私に一切関わらないで欲しいの」

すごく穏やかに、彼女はそう言った。

その意味がわたしにはよく分からなかった。

・・・いや、本当は今までの話で言わんとする事が理解できていたとは思う。

だけど、本当に納得して『じゃあ分かりました、はい』なんて言えるようには、わたしの頭は賢くできてなかった。

「・・・人間界に住む魔女も一旦全員魔女界に帰ってもらいます。

 その後、ハナの役目の目処がとれるまで、魔女界への扉はすべて封鎖するつもりです」

女王様がハナちゃんの言葉に追記して言った。

「マジョリカ、よろしいですか。 ・・・すでにマジョリリカも魔女界に戻っています」

わたし達は、女王様の声が向けられた方向を振り返る。  マジョリカが真剣な面持ちで、そこにララ達を従えて立っていた。

「・・・女王様」

マジョリカは決めていたように言った。

「ワシはたった50年の間ですが、この人間界に腰を据えている者です。

 たとえ魔女界の歴史にある悲惨な行為が人間界で繰り返されたとしても、

 それはそれでワシはその運命を受け入れるつもりですわい。

  ・・・それに」

マジョリカはわたし達を見てニヤリと笑った。

「こいつらも、どうせハナの言う事なんざ、聞く気はないでしょうからな。

  ワシはここで、ハナとこやつらのやる事を、ずっと見ていたいのですじゃ」

マジョリカの言葉はぶっきらぼうだったが、わたし達に勢いを乗せるのには事欠かない援護だった。

「そうだよ、ハナちゃん。 わたしは魔女、やめるつもりなんかないよ?」

「そうよ。 ハナちゃん一人だけに、そんな大変な仕事をまかせるつもりなんかないわよ」

「そやで。 アタシは話が大きすぎてなんやちっとも実感とか沸かへんけどな、これだけは言える。

 一人じゃ、無理や。 潰れてまうで」

「ハナちゃん、私達はあなたの母親よ。 子供がやりたい事を存分にやれるように後押しするのは、親の役目なのよ」

「Yes!! おんぷチャンも歌っていたネ! 『We can do everything if you do it together』ヨ!

 もも達でも、何かの役に立つと思うヨ!」

「思う、じゃなくて立たなきゃダメだよ、ももちゃん!

 ・・・ハナちゃん、わたし達は全然迷惑でもないし、それにハナちゃんにわたし達が関わる事で何かある、

 っていう変な心配してくれてるから、ってのも分かるよ。

 でもね、これだけは言わせて。

 ハナちゃん、わたし達は・・・ あなたのママであると同時に、友達なんだよ。

  だから、手伝わせて。 ハナちゃんのやろうとしてる事。

 頼って。 ・・・わたし達を!」

正直、たかがわたし達5人の力や存在が、ハナちゃんのやろうとしている事にどれほどの効果があるというか

と言われればそれまでであり。 でも、だからといって放っておけるわけにもいかない。 ってゆうか、放って置けるわけがない。

それが、人間なんだ。 

魔女が欲しがっている人間の・・・愛なんだから。

「・・・私って、イヤな子だよね」

ハナちゃんは少し声をつまらせながら、小さく言った。

「みんなが・・・みんなが、絶対にそう言うって分かってて・・・ 

 私のせいでみんなに迷惑がかかったとき、少しでも責任を軽くしようとして・・・ 自分から『手伝って』って言わなかったなんて・・・

 本当、私バカだよね。 イヤな事しちゃったよね。 ママ達、ごめんなさい・・・」

ハナちゃんは口に手を当て、小さく肩を震わせた。

わたしが一番最初に一歩を踏み出した。

そして、みんなが続く。

私は泣いているハナちゃんを、そっと抱き寄せた。

みんなが一丸になって、小さく泣いているハナちゃんを暖めた。

「・・・私、本当は心細い。 とても不安なの。

 一人でできるのか、それも全然わからない。  この先どうなるのか、私、全然分からない・・・」

あいちゃんが優しくハナちゃんの頭をなでた。

「だけど、みんながいるなら・・・ みんなが手伝ってくれるなら、きっと出来る気がする。

 私は、みんながいればきっと頑張れる。 みんなが・・・」

「手伝うよ、ハナちゃん。 大丈夫。きっとできるよ。 だから一緒に頑張ろう」

ハナちゃんは、小さくスンスンと泣きながら、何度も頷いた。

変わらない、昔のハナちゃんがそこにいた。

 

 

『私は、魔女です。 魔法が使えます』

マイクを通して、ハナちゃんの呆気らかんとした声が体育館内に響く。

どよどよどよ、と、当然の様に集まった全校生徒はざわめきだした。

始業式の次の日。 再びこの体育館で、緊急に集会が行われている。

その主役は、今声高らかに宣言を上げた2年A組・巻機山花さんである。

『私は人間ではありません。 魔女です。

 基本的に人間の女性と全く変わりませんが、魔法を使う事ができます。

 それだけの違いです。 

 怖がる人も、気味悪がる人もいるかもしれませんが、私は見たとおりの『人間』です。

 どうか、みなさん仲良くしてください』

「・・・ええんかな、本当にこんなんで」

あいちゃんが後ろからボソボソと耳打ちしてきた。

「わたしに聞かれてもなぁ・・・ あいちゃんがもしハナちゃんの立場だったら、どうするつもりなのさ?」

「アタシに聞かれてもなぁ・・・」

お互い、とりあえずハナちゃんに貸すような知恵はなかったようだった。

『魔法といっても、すべての事をできるわけではありません。

 魔法で人の命と、心を変化させることはできません。

 ですからみなさんが心配するよう悪辣な魔法などは、使えません。

  私ができるのは、ちょっと変化してみたり、ちょっと浮いたり、ちょっと物をだしたりするくらいです』

言いつつ、ハナちゃんは体育館に花びらの雨を降らせ、鳥に変身して飛び回り始めた。

・・・言うまでも無いが、説明がなかったら大パニックだ。 

説明があっても、かなりの騒ぎになっていた。 まあ、A組は割と普通にやんややんやしていたが。

 

・・・本当に、いいのかな。 こんなので・・・。

 

 

 

「小さな処から、まずは根付くようにするわ」

すでに前の力強さを取り戻したハナちゃんは、そうわたし達に説明した。

「いきなり広い世界に向けて交流を持とうとしてもできない事は分かるもの。

 小さく、少しづつ、そんな地域的な社会からまず『魔女』がいるという事実、

 人間と交流できているという事実を作っていかなきゃならないから」

「・・・それが、学校なの?」

「そう。 まずは学校という小さな社会で私はみんなに認めてもらう。

 そこで弾かれるようだと、絶対にこの先の広い社会では認められないから。

  少しづつ、私の自信とみんなの理解を増やしていくの。 地道だけど、それが一番確実な方法だと思う」

「わたし達が手伝う事は?」

「・・・今は何もないわ。 逆に、何も手伝ってくれないほうがいいの。

 まず私が魔女であり、私の存在自体がある程度社会に根付くまで、

 みんなは今まで通り魔女であるという事を隠しておいて欲しいの。

 最初の一歩が一番危険で、状況がどうなって何が起こるのか予想できないから。

 私一人なら自分の魔法で何が起こっても対処できるけど、みんなが関わった場合どうにも対処できなくなる可能性があるから」

ハナちゃんはみんなをざっと見渡した。 ハナちゃんの言葉に意見する者はいなかった。 

正直、意見できるほど確実な方法論、良いアイデアなどがある訳がないので何も口にできなかった、というのが適切かもしれない。

「多分、みんなの力を借りるのは状況が動いた後よ。

 現代の人間社会がどう動くのか、それが分からないと・・・

 『魔女が人間界に他にもいる、しかもそれは人間の魔女です』

 という事実は諺で言う『諸刃の剣』に成りかねないわ」

「最初は、見てるだけか・・・」

あいちゃんが少しやりきれない声でそう言った。

「だから、私はMAHO堂にも住まないで別の場所に一人で生活することにしてるのよ。

 とにかく、絶対に500年前の惨劇だけは繰り返してはいけないの。

 日本という国は魔女に寛容な処でもあるし、宗教的にも縛られてない比較的魔女にとって安全な国とはいえ、油断はできないわ。

  人間全体を疑っているわけではないけど、本当に『魔女狩り』の繰り返しだけはやってはならないから」

『魔女狩り』。 

とてもイヤな言葉だ。

後で調べた事だけど、この事件はおおよそ想像できないくらいの悲惨さを持って、

計り知れない人間(ハナちゃん曰く、魔女含む)の命を奪っている、実際の歴史にあるとても信じられない出来事だ。

この時しきりにハナちゃんがそう繰り返していたのも、今になって頷ける。

「とにかく、最初は見守っていてくれるだけで充分。

 今まで通り、そう、5年前と同じような感覚で接してもらえてるだけで充分だから。

 普通のお友達で居てもらった方が、見た目にもとてもいいの」

ハナちゃんがそう話したところで、突然ピピピピと高い機械音が鳴った。

「・・・あ、ごめんなさい。 私のアラームだったわ」

おんぷちゃんが急いで携帯を切る。

「おんぷ、そうね、もう時間なのね? ・・・うん、大体話は済んだから・・・ 分かってもらえたかしら」

なんか唐突に話が済んじゃったみたいだけど、おそらくみんな理解はできたと思う。

・・・きっと様相だけだと思うんだけど。 何せ、話がとことん大きすぎて実態を掴むのも難しいのだから。 

みんなはなんとかウンウンと頷いていた。

「ハナちゃんは、当分美空市で暮らすわけなのね」

おんぷちゃんが言う。

「Mm~、タシカにStatesはChristendomだからネ。 オッピラに魔女は住みにくいかもしれないネ。 残念」

ももちゃんは悲しそうに両手の平を上げてそう言った。

「・・・でも、いずれはアメリカという国にも出向かなければならないと思うの。 今の人間界を代表する一番大きな国だから。

 その時は、おんぷやももこの力を借りる事になるから」

「ウフフ、そうね。 それまで私もハナちゃんを手助けできるくらいに、

 ハリウッドで成功して全世界に発言力のあるような女優になってなきゃダメよね」

ますます頑張らなきゃ、とおんぷちゃんは物凄い事を平気でサラリと言った。

「ええ・・・。 期待しちゃうから。 では、おんぷ、ももこ、向こうに送るわ」

ハナちゃんが指を鳴らし、水晶玉を出した。

初めて見る、ハナちゃんの水晶玉。 ・・・というか、これって水晶なのだろうか・・・? 

不思議な虹色に輝くそれは、下手をするとサッカーボールよりも大きい。 私の水晶玉が、まるで碁石のようだ。

「おんぷちゃん、ももちゃん、またね」

「どれみチャン、はづきチャン、あいチャン、ハナちゃんの事、よろしくネ? ももタチの力が必要になったラ、絶対に連絡してネ??」

「勿論やて。 まあ、まかせとき」

「ハナちゃん、無理はしないでね。 どれみちゃん達も」

「うん、分かってるよ」

ハナちゃんが『じゃ、いくわよ』と声をかける。 

わたし達はお互いに手を振った。

そしてハナちゃんが短い呪文と共に手をかざすと、おんぷちゃんとももちゃんは光に包まれ、弾けて消えていた。 

本当に、たった一瞬の出来事だった。 ・・・わたしはまだ手を振ったままだったのだから。

「・・・すでにある物を遠くに一瞬で飛ばす魔法は、かなり難しい魔法じゃ。

 それを人間二人を、同時に果てしなく遠いアメリカという国の別々の場所に飛ばせるとは・・・

 本当に物凄い魔力じゃて」

マジョリカが唸っている。 その辺の薀蓄は、元祖魔女にしか分からない。

「では、私達も魔女界へ戻ります。

  ・・・ハナ、すべてはこの時のため、私はあらゆる用意をしたつもりです。

 非情かもしれませんが、ここから先は最早あなたにまかせるしかありません。

 魔女界のため、そして・・・みんなのため、どうか無事に」

「・・・はい、女王様」

女王様はハナちゃんをじっと見つめ、そしてマジョリカを見つめ、そして最後に私たちを見つめた。

「・・・どれみちゃん達、再び・・・ハナを頼みました」

「・・・はい!」

4人の声がきれいに重なる。 女王様は頷き、馬車に戻った。

そして馬車は来た時と同じような澄んだ鈴の音をMAHO堂に撒いて・・・ 

月の中へ、姿を消した。

それは、同時に魔女界と人間界の扉が閉った事を意味していた。

 

わたし達全員は、しばらく無言のまま夜空を見上げていた。

・・・果てしない空。 

闇夜の中に、大きな月が一つ。

「どれみ、あいこ」

気が付くと、その月に重なってハナちゃんがほうきにまたがり、わたし達を見おろしていた。

「また明日、学校で」

手を小さく振る。

「・・・うん、また明日学校で」

そう返して、私は大きく手を振った。

とりあえず大きな事は分からないから放っておこう。 

今は、いつも学校で友達と『さよなら』するようなこんな小さい日常のやり取りこそが、

この世界に生きていくハナちゃんにとって一番大切な事だと思ったから。

ハナちゃんは満足そうに笑顔を見せると、月の中に小さく消えていった。

 

 

 

昼休み。

ハナちゃんはわたしの隣の席だ。

・・・わたし達の昨日の一抹の不安も何処へやら。 わたしの静かな昼食タイムが人混みで押しやられる程、

高校生魔女・ハナちゃんは人気者だった。

「・・・なんか、騒がしな。 屋上いく?」

あいちゃんがお弁当をブラブラさせて、ぎゅうぎゅう人に押されているわたしを見ながら言った。

「そ、そうするしかないみたい」

わたしはそう言い、なんとか席を脱出することができた。

「ねえ、どれみ? お弁当、一緒に食べましょう?」

そんなわたし達を、黒山の中から首だけつきだして引き止めるハナちゃん。

「い、いいけど」

「アタシらここ狭いし、人ぎょうさんおるし、屋上で食べよ思たんや」

「うん、じゃあ私もそうするわ」

ハナちゃんがそう言うと、周りのみんなも『俺も俺もー!』『私も私もー!』と盛り上がって騒ぎ始めた。

「ウフフ。 じゃあ、みんなで一緒に行きましょう!」

パチン、と指の音。

するとわたしとあいちゃん、そしてハナちゃんを囲むみんなの体が、フワリと宙に浮いた。

「ちょ、ちょっとハナちゃん!」

うわーとか、おおー、とか、浮いているみんなは大はしゃぎだ。 あいちゃんは顔に縦線入れて、やれやれと深いため息。

「屋上に、いきましょう!!」

ハナちゃんが浮いたまま、みんなを先導するように窓の外に飛び出す。 

続いてわたし達も、ハナちゃんの魔法によって強制的に引きずられ、窓の外に引っ張り出された。 

・・・歓声と悲鳴の二つに分かれる。

 

「な、なあどれみちゃん」

「・・・何、あいちゃん・・・」

「・・・本当に、こんなんでええんか?」

わたしは眩しそうに笑っているハナちゃんを見上げながら、

「・・・多分ね」

と苦笑いしながら答えていた。

 

春。

桜の花もそろそろ散り尽くし、青い若芽が息づき始める、そんな季節。

 

ハナちゃんの一歩もそういうものだろうな、と私は感じていた。

 

 

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