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In wonderland(どういうこと!?)

<32>

 

「どうなのよ!」

朝も早くから顔を合わせるなり、おんぷが予想した以上の剣幕を以ってシンディーは彼女に詰め寄っていた。

教室の隅っこに位置するおんぷの席はそれだけで既に逃げ場が無いのだが、

更に徹底するかのようにシンディーはオロオロするおんぷに身を寄せ空間を埋めつつも、ダン、と机を叩く。

その叩いた机から、ヒラリと一枚の紙が落ちた。 

それをクリスが遠慮がちに拾い、それに気付いて後手に差し出されたシンディーの掌におずおずと握らせる。

そしてもう一度シンディーは、その『証拠物件』をおんぷにつきつけながら、まるで荒ぶる刑事の尋問のごとく問いを復唱した。

「この写真のオンプ。  昨日のバーガー屋のオンプ。  そんで、今のアンタ。

 一体、何なの!? どういう訳か、説明してちょうだい!  アンタ、アタシ達をだまして、一体何がしたいわけ??」

「だまして、なんて、そんな…」

と答えるオンプの声は果てしなく頼りない。 一切反論(?)が無かったかの様にシンディーは続けた。

「オンプ、あんた日本にいた頃はスターだったんですってね」

「え、あ、うん、その、…少し」

「これのどこが『少し』なのよ!!」

バンバン、とシンディーはおんぷの眼前でインターネット上で集めた様々な『瀬川おんぷ』の資料を叩きながら詰める。

「どうもこうも、大人気のようじゃないの。  それが何? 1年前、映画の仕事を最後に突然の休業宣言をして行方知れず。

 日本のオンプファンを一大騒動に巻き込んで、本人はこっそりステイツで  のんびり高校生をやってるわけだ。 地味なフリして」

えーと、とか、んーと、とか口をもごもごするおんぷを我慢できなくなったようにシンディーは睨み据えると、

唐突にその地味っ娘のシンボルであるメガネをひったくった。

あっ、とか小さい子供のような悲鳴をあげて、おんぷは両手を伸ばす。

シンディーはペシッとその抵抗を一蹴し、オンプのメガネをかけて目を細めた。

「…ホラ、やっぱり度が入ってない。 ファッション? これ」

「そ、そういう訳ではないんだけど…」

「…教えてよ、オンプ」

メガネをかけたまま、シンディーは口調を改めて真剣な表情を以っておんぷの目を真っ直ぐに見つめる。

「あなたの『本当』って、何?  アタシは、ずっとオンプを親友だと思ってた。

 全部を許して、アンタと  付き合ってこれたと思ってた。  なのに…

 全然、わかんないよ! オンプ、あんた、一体何なの!?  どれが本当のオンプなの!?

 アタシたちに、素顔は見せてくれないっていうの!?」

シンディーの声はそれほど大きくはなく、教室の朝の喧騒の一部として消えている。

だが、その一角に居合わせたおんぷ・シンディー本人・クリス・そして、こっそり様子を覗っていたブラウの間にあっては、

とても強い声となって響いていた。

少しの間、クラスの喧騒がこの4人の空間を他と同じように漂い流れる。  そしてのち、オンプは口元を結んで…小さく答えた。

「…私、嘘なんかついてない」

ピクリ、とシンディーの身体が揺れる。 

てっきり得意の『ごめんなさい』が飛び出すかと思ってはいたのに、小さな声だが…反論されたからだ。

「みんなが見てる私… 嘘をついてなんかいない。  私は私。 おんぷはオンプ。

 どれもみんな… 素顔のおんぷの『一部』…よ…」

言っているおんぷ自身もまるで言葉の意味の自信が無くなってきたのか、

段々と言葉の語尾が霞んで目の前のシンディーの耳にも届かなくなりそうになっている。

そんなのでは、まるで説得力も無い。 

シンディーがもう一度気を吐きそうになって息を継いだとき、絶妙のタイミングでおんぷが言葉をはさんだ。

「あっ、で、でも!  …きっと、分かってくれると思うから」

「…な、何が?」

「シンディー、今日学校終わった後、時間ある?  よかったら、付き合って欲しいの。 …私に。

 そうすれば、私のこと、本当の私ってことの意味、多分、分かるから」

じっ、と、まるで頼りない子供が母親を覗き込むような眼差しで、おんぷがシンディーを覗き込む。

何かを言おうとしていたシンディーは、その言葉を飲み込んだ。

…飲み込まされた、のかもしれない。

力が抜けたように、肩を上げて見せる。 やれやれ、といったそのポーズだ。

「…ハ、分かったよ。 オンプ、アタシはアンタが大好きなんだ。

 アンタをより理解できるなら、どこだってついてってあげるよ」

ありがとう、とおんぷは小さく呟いた。

「…僕も、行ってもいいかな」

おずおずと、この一連の真相究明に一番貢献していただろうクリスが、大分ひかえめな態度と声を供えて手をあげる。

「ボ、僕もオンプのファンなんだ…」

シンディー程ストレートに『大好きだから』などと宣言は出来ないにしても、クリスなりに多大な勇気を以って発した一言である。

シンディー、オンプはお互い顔を見合わせた後、含みのある微笑で返事とした。

「で、そうなると、当然アンタも付き合うわよね?」

ニヤニヤと、シンディーが少し離れた位置で諜報しているブラウのしかめっ面を射抜きながら問いかける。

最初は『なんでこの僕が』とか言っていた彼であったが、

結局最後には『今日は特に用事もないからな』という返事になって仏頂面を赤らめさせていた。

 

 

 

夕方になりかけの、気だるくのんびりとした時間のダウンタウンを歩く。

長いこと続いていたイヤな天気も、今日は忘れたかのように晴れ間だ。 

ぽかぽかした陽気の名残が、そろそろ日を落とし始める街に漂っていた。

そんな街中のビル郡を、チラチラと落ち着き無い様子で眺めながら集団の先頭を歩いていたおんぷは、

ついにごそごそとカバンからメモを取り出した。

「…ねえ、オンプ、もしかして…  アンタも初めて行くトコロ?」

そんな様子を見たシンディーが、少し溜まりかねたような感じの口調でおんぷの背中に投げかける。

おんぷは振り向くなり、とても頼りない笑顔を浮かべながら微妙な角度で頷きを返した。

「た、たしかこの辺なんだけど」

それを聞いたとたん、シンディーは乱暴におんぷの手からメモを取り上げる。

ああっ、と小さな声をあげておんぷが弱々しく手を伸ばしたが、それをピシャリと制してシンディーはメモに目を通した。

「4番街? バカ、それ道路の向こう側の方じゃないの!」

「あ、あれ? そうだった…?」

「ああ、そうだとも」

冷ややかに、ブラウがシンディーの肩代わりをする。

誤魔化し笑いを必至で続けるおんぷの姿は、もうメガネを外してはいるものの… 学校に居る時のおんぷと変わりは無い。

こうやって冷静におんぷを観察してみると、何だかムキになって彼女を問い詰めた自分たちがバカらしくなってくる

とシンディーは思い始めていた。

人には色々な顔があるとは言え…無理矢理に、おんぷの別の顔を探らなくても良かったのではないか。

シンディーは考える。

アイドル時代のオンプやアルバイトの時のオンプ、考えてみると、それらはなんというか『営業用』の匂いがする。

そのオンプの顔は、多数の見知らぬ人間に少しでも愛想を良くしなければならない、

という義務付けに裏打ちされてできたモノではないのだろうか。

何のことはない、本当のオンプの顔というのは、実は今まさに自分達が見ている…

この情けなくて、頼りなくて、大人しくて、見ていて放っておけないオンプこそが真実の彼女の素顔なのではないだろうか、と。

「このビルみたいだな。 スタジオ・セイレーン。 間違い無い」

何時の間にか先頭に立っていたブラウが、その新しめなビルを見上げながら手もとのメモと照らし合わせ、頷く。

「さ、オンプ。 ここからは再び先頭に立って僕らを案内してくれたまえ。

 一体僕らに何を見せてくれるのか知らないが、コレ以上君の『何か』を見せられるのは、

 正直あまり期待したくないんだがね」

そんなブラウの言葉を聞きながら、シンディーは『何だ、ブラウも同じこと考えてたのかな』と、少し嬉しくなった。

目的地に着きブラウに促されたオンプは、それでも足取りがぎこちないままにオドオドしながら自動ドアを潜る。

この中で唯一クリスだけが、少しワクワクしながら3人の後を追ってその建物の中に足を踏み入れた。

 

 

 

スタジオの受付でおんぷが自分の名前を恥ずかしそうに小声で呟くと、その受付嬢のお姉さんは一瞬顔を輝かせて目を丸くした後、

その訪問者達を(正確にはおんぷだけ、だが)『フゥーン』とか『ヘェー』とか含み笑いと好奇心をチラチラと見せつつ値踏みしながら、

丁寧にその場所へ案内してくれた。

静かなビルの廊下をコツコツと様々な足音を響かせながら歩く。

そしてノックもせずにやや大きめの扉を力いっぱい、といった感じで引くと…

 

「そう、そこには殺意があるからなのさ!!」

突然、物騒な台詞が大音響で響いてきた。

思わず訪問者達は身体を震わせる。

「違うわ、ディセンフィーネ! それは全く違うもの!  愚かな、人と人がつるぎを交わすのは、その為だけではないでしょうに!」

更に負けないくらいの声量で以って、悲壮な女の言葉が続く。

たくさんの明るいライトが、扉のむこう側にあったこの広い空間を目一杯輝かせようと隅々まで照らしている。

壁の両側はすべて鏡張りになっており、幾人かがその鏡に映った自分の姿を熱心に観察しながら動いている。

家具や椅子、そして絨毯などもないただただ板張りのフローリングがずっと広がる空間。

その中央に、先ほどの声の主が二人…その周りに3人、動きながら何かのドラマを演じていた。

始めはあの声や突然の明るい空間に仰天して理解がおぼつかなかったが、ここまで見ればもうここが何であるか解った。

「演劇の…練習?」

確認するように、シンディーが小声でブラウに尋ねる。 ブラウも自分で確認するかのように頷いた。

クリスは熱気あるこの世界にとまどいながらも、キョロキョロと興味深か気に視線を方々に飛ばし、

おんぷは特に何も感じないような表情で、ぼんやりと自分達を入り口付近で待たせ奥の隅の方に歩いて行く

受付のお姉さんを目で追っていた。

その先の人だかりで、何やら話がまとまる。 

一人の男性がゆっくり立ち、両手を胸の前に持ってくる。  そしてそのパンパンと鳴った大きな拍手が、稽古場全員の視線を集めた。

「よーし、OK!! ここで少し休憩する!」

野太い男性の声が響き渡ると、色々なところから様々な吐息が漏れて聞こえた。

稽古が終わったスペースの中央をそそくさと通りすぎ、役目を終えたお姉さんが『じゃあ、バイ』と軽く微笑んで消えていく。

4人はただ、ぼーっとその姿を目で追っていくだけで、微動だにせず立ち尽くしているのみ。

そんな行き場の無い不安気な4人の前に、ゆっくりと一人の女性が歩み寄ってきた。

「うふふ、ようやく来たわね。  全く、こういうきっかけでもない限り、アナタこっちの世界にちっとも  顔出さないんだから」

東洋系の妙齢なその女性は、苦笑を口の端に残しつつ、といったような口調で英語ではない言葉を喋った。

日本語である。 当然…おんぷに対して発せられた、さくやの愚痴のようなものだ。

「だから、私にはまだ早いって」

と、おんぷも苦笑を混じえて日本語で返す。 そのやりとりを見て、どことなくシンディー達は目が点になった。

「知り合い?」

相手が切り出す前に、直球でシンディーは短気におんぷに小声で問う。 当然英語だ。

「あ、うん。  私がここ(アメリカ)でホームステイさせてもらってるところの」

おんぷは一瞬、言葉を切ってちらりとさくやの表情を盗み見る。

さくやはそんなおんぷの反応にニヤリとしながら、

「さあ、どうしましょうね。 今日は。  娘にするか、従妹にするか、年のチョット離れた友人にするか、妹にするか…」

楽しそうに腕を組みながら、さくやは全員の表情を吟味するように呟いた。

「…え、え、え? なに? なんなの??」

案の上、オンプズフレンズは何が何やらさっぱり飲み込めない。

「オンプのママじゃないの?」

シンディーの、おそらく他人に同じ質問をしてもその回答率が一番高そうなその答えに、さくやは声にして苦笑した。

「あらぁ、私ってホントにこの子の母親のような年齢(トシ)に見えるわけ?

 あー、ホント、ちょっとショックなのよね、オンプと同じ世代の子から  ストレートにそんな感想聞くのは」

あわててシンディーは、笑顔で傷付いたと思われるこの謎の女性に謝り取り繕う。

そんな様を見て、おんぷは自然にシンディーの肩を叩きながら、

「いいのよ。 フォローしなくたって。  じゃあ、せっかくだから今日は『私のお母さん』でいきましょうか?」

と涼やかな微笑と共にそう発した。

一瞬、シンディーはゾクリとする。 その時のその隣にいた女の子が、一瞬誰だか解らなくなった。

何時の間にか… そう、全く以って『いつのまにか』。 

隣のオンプが、何か自分の知らないオンプに化けたような気がしたのだ。

何か、凄い物を見た気がする。

人は… こんな、その人の持つ雰囲気というものを他人にハッキリ解らせる程、直に『変われる』ものなのだろうか。

シンディーだけではなく、後のブラウやクリスでさえ、それはどうやら感じているようだ。

男子二人、凍ったようにおんぷを凝視したまま動かない。

と言うことは、何やら『気のせい』ではない。 これは…。

そんなギャラリーの表情を読み取り、さくやは『そうね』と幕を進める台詞を発した。

「まず、私の自己紹介からしたほうがいいかしら。  私はさくや。 女優をしています」

唐突に、さくやは話し始めた。

「女優…」

ポロリ、とブラウの口からその単語が零れる。 さくやはそれを拾って、次に繋げる。

「まあ、君達の感覚で言えば、女優と言えばハリウッドですから、  私の事は知らなくて当然よ。

 残念ながら、私はそれほど凄い女優でもないし」

「おいおいおい、そういう事言ってもらっちゃ困るぞ、サクヤ。

 そうしたら君に何百回もドゲザをしてまで僕の芝居に出てもらう契約を交わした、

 そんなボクの目がポンコツだってことになるじゃないか」

そう突然さくやの背後から、先ほど拍手を鳴らして全員に指示を出していた中年の男性が『台詞』を以ってこの『舞台』に入る。

彼はさくやの肩に手を置き、『ワタシら何も知りませんから』というようなハイスクールの子供達に向かって熱弁を振るい始めた。

「サクヤは素晴らしい女優だぞ。  彼女は映画にこそ出演しないが、この演劇の世界ではかなり有名さ。

 どのくらい凄いかというとだな、そう、君らも今度僕らがやる芝居を見に来ればスグに分かるとも!」

「営業しない」

ポン、とさくやが静かに彼の胸を叩く。

「見たかい!? この絶妙の一撃!  これがジャパニーズ・ツッコミさ。 間を制す物は舞台を制す。

 君らは今、演劇の真髄を生で見たんだ。 どうだ、凄いだろう!」

「ロジャー、何か… どんどん信憑性がなくなるんだけれど。

 見なさい、彼ら、アングリしてるわよ。 タチの悪い詐欺師に捕まったように」

「舞台監督なんて、そういうもんさ」

ケロリ、と彼… 話からして、舞台監督のロジャーさんはアメリカンスマイルと共にそう言ってのけた。

当然、ここまでの話はあまりにも唐突すぎて、シンディー達にはまるで理解が追いついていないだろう。

おんぷはさくやと監督さんの漫才に、クスリと笑う余裕まであるが、何にしろ何を言いたいのか分かっているものでもない。

「つまり、簡単に言うとだね」

真顔になって、そんなみんなの状況が分かっているかのようにロジャーは指を立てる。

「サクヤは明らかに名女優ってことだ。  それは間違い無い。

 そしてその名女優の弟子が、キミ、オンプ・セガワなんだろう?」

立てた指が、おんぷに向く。 ロジャーは不精髭を左手で触りながら、ニヤリと笑った。

シンディー、そしてブラウ・クリスも、薄々とは頭にあったが、それを新たに書きかえられたような心持ちで、

その指に釣られたように目線が― おんぷに向く。

その、皆の視線を一心に受けたおんぷは、特にたじろきも怯えもせず… はにかんだように、微笑んだ。

それだけで、シンディーらは『このオンプはもはや知っているオンプとは違う』と改めて確信した。

「…今日は、さくやさんの弟子、かぁ」

「今日は、じゃないでしょ。  女優の卵。 このワタシが大事に暖めている卵が、あなた。

 オンプ・セガワ。  それが、真実よ」

ヒューゥ、と口笛が周りから鳴った。 気がつけば、何時の間にかオンプ達はこのスタジオにいる全員に囲まれ、興味の的になっている。

「…それで、サクヤ。

 今日は、その卵がかえる瞬間を独り占めせず、惜しげも無くボクらに見せてくれる、というわけなんだね?」

ロジャーは静かに微笑みながら、何かの真剣さを含んだ言葉でさくやに問う。

当然、さくやは…頷いた。

「そういうことよ」

そうハッキリと断言しておいて、さくやも真面目な顔つきでオンプに向き直る。

腕を組み、右手を少しあげて左の肩をトントンと叩くような仕草は、さくやが真剣な話をする時の癖。

「オンプ。 そろそろ、あなたは舞台に上がってみたほうがいいわ。

 別に演劇の舞台、という意味だけじゃぁない。  あなたが目指すものの世界にあがる、という意味で。

 お友達にも、それを見せたほうが早いわ。

 あなたが… どういう人間なのか、何をしている人間なのか。

 私も監督さんも劇団のみんなも、そしてお友達も。

 全員の目を意識して…  あなたの演技、見せてごらんなさい」

聞けば、それは大層重い意識と相当な覚悟を要するような言葉。

誰もが、さくやがこの台詞を言った後のやや重い空気を…予想した。

が、その女優の卵は飽きれるくらいにのほほんとした微笑を浮かべ、

「あーあ、しょうがないな。  知らないですよ、師匠が恥をかいても!」

と、さわやかに空気を流した。

ふ、とさくやが口元を緩める。

「はいはい。 恥をかく用意は出来てるわよ。  ハッタリをかますのは女優の十八番ですからね」

ポン、とおんぷの頭に手を置き、さくやは仕方なさそうに笑った。

「荷物、置いてらっしゃい。 お友達も。  誰か、案内してあげて」

そう発したさくやの言葉に、多すぎる程の人間が高校生達を囲み、廊下に出て行く。

そんな様子を本当に楽しそうに見つめながら、さくやはふぅ、と息をついた。

「サクヤ」

ギャラリーがいなくなり、作ったような明るさを消し去ったロジャー舞台監督がもう一度問いかける。

「随分期待してるようじゃないか。  それほどかい、あの子は」

さくやは見えない間を置く。 まるでそこが、舞台の上のように。

そして含んだ気持ちを少しづつ、相手に染み渡らせるように言葉を…台詞を紡いでいく。

「感性が、並じゃない。  あの子、たまに本当に16歳かと思うことがあるわ」

芝居がかったようなさくやの振り向きは、次の言葉をイヤでも監督の脳裏にねじ込むだろう。

さくやの確信。 

そして、この後に全員が垣間見るであろう、その答え、を。

 

「あの子は一人、とんでもないところを見ていると思う。

 そう…  彼女は、天才よ」

 

 

 

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