優しい雛ちゃん 昔々、ではなく、結構最近のことです。 『幻想郷』という、妖怪や神様の住むちょっぴり不思議な世界のお話です。 妖怪がいっぱい住んでいる山の奥深く。 とっても大きな滝の近くに、鍵山雛という神様が住んでいました。 雛ちゃんはとっても優しい女の子。 オシャレさんで、とっても可愛いリボンをいつも身につけています。 でも、そんな雛ちゃんは、ちょっぴり不思議な力を持っていました。 『近くにいる人の不幸(『厄』と言います)を集める』という程度の能力です。 厄を取られた人はみんな、悪いことが起きなくなって幸せになります。 だから、優しい雛ちゃんはいつもみんなの厄を取ってあげています。 でも、『厄を集める』能力は『厄を消す』能力ではありません。 雛ちゃんの周りにはいつも真っ黒な厄がいっぱい。 彼女に少し近づいただけで、厄が沢山くっついてしまいます。 だから、誰も雛ちゃんに近づこうとはしませんでした。 雛ちゃんはいつも独りぼっちでした。 それでも雛ちゃんは厄を集めることを止めません。 雛ちゃんはとっても優しいから。 少しでもみんなを幸せにしてあげたくて。 優しい雛ちゃんは、いつも独りぼっちでした。 ある日の夕方、雛ちゃんは厄を集めに山道を歩いていました。 逢魔が時と呼ばれるこの時間が、最も厄が集まりやすいからです。 雛ちゃんがくるっと回ると、吸い寄せられるように周りの厄が集まってきます。 くるっ、くるっ、くるくるっ。 あっという間に、雛ちゃんの周りは厄でいっぱいになりました。 山に随分と厄が溜まっていたのでしょう、帰る頃には、雛ちゃんは真っ黒な厄に取り囲まれて、すっかり姿が見えなくなってしまいました。 でも大丈夫、このくらい雛ちゃんは慣れっこです。 薄い視界の中、しっかりと山道を下っていきます。 もうすぐ家に着くな、と雛ちゃんが思った、その時です。 ・・・ぇ〜〜ん、うぇ〜〜ん・・・・・・ どこからか子供の鳴き声が聞こえてきました。 きっとお母さんとはぐれてしまった迷子の声でしょう。 もうすぐ日が沈んでしまいます。 暗くなったら、そこはもう妖怪の時間。 小さくて非力な人間の子供なんて、すぐに食べられてしまうでしょう。 優しい雛ちゃんは居ても立ってもいられません。 来た道を引き返し、鳴き声を頼りに子供を捜し回ります。 暗い視界の中、歩きにくい山の中をかけずり回り、やっとの思いで迷子を見つけました。 五歳くらいの小さな男の子が座り込んで泣いています。 ですが、雛ちゃんの周りには厄がいっぱい。 手を繋いだり、一緒に山を抜けることはとてもではありませんが出来ません。 少し離れたところから、声をかけて導いてあげることしか出来ませんでした。 ゆっくりと、雛ちゃんは少年に語りかけます。 大丈夫、怖くないわ。あなたは一人じゃない。 突然聞こえてきた声に、少年は驚きました。 黒い靄のような、禍々しい固まりから、正体不明の声。 ですが、その暖かい響きに、恐怖は少しずつ解かされていきました。 暗くなる前に行きましょう。私が案内するから。 その優しい声に、涙は引いていきました。 さぁ、こっちよ。声のする方に歩いてきて・・・ その慈愛に満ちた声は、薄暗い山道を歩き出す勇気を与えました。 少年は、正体も分からないその声に付いていきました。 不思議なことに、不安は一切ありませんでした。 二人が山を抜けた頃には、もう辺りは真っ暗でした。 ですが、もう人里は目の前。 妖怪が襲ってきても、寺子屋の先生が護ってくれることでしょう。 もう大丈夫よ。よく頑張ったわね。 雛ちゃんが遠くから語りかけます。 ありがとう、お姉ちゃん! 少年は晴れやかな笑顔を見せました。 雛ちゃんはとっても嬉しくなり、とっても幸せな気持ちになりました。 里の方から三人程、走ってくる影があります。 きっと少年の両親と寺子屋の先生でしょう。 よほど心配していたのか、両親は目を真っ赤に泣きはらしていました。 先生も服がボロボロです。遅くまで山を探し回っていたのでしょう。 あ!パパ、ママ!けーね先生! 少年も駆け寄り、母親にきつく抱きつきました。 ああ!坊や!心配したのよ。良かった、本当に良かった・・・ 母親が涙を流して喜びます。 一人で山を下りたのか? 心底安心した顔で父親が聞きました。 ううん、不思議なお姉ちゃんが助けてくれたんだ。 なんだかね、黒くて、もやもやしてて、優しくて・・・ なんだか要領を得ない説明に両親は不思議がっていましたが、何でも知っている慧音先生だけは理解したようでした。 そして、慧音先生は少年に言いました。 そうか、それは凄く運が良かったな。 そのお姉さんはな、 幻想郷一優しい神様なんだよ。 雛ちゃんはいつも独りぼっちです。 ですが、みんなから嫌われているわけではありませんでした。 みんなを災いから守ってくれる、優しい神様だと知っていたからです。 ですが、誰も雛ちゃんに近づくことは出来ませんでした。 近づけば厄にまみれてしまうし、雛ちゃん自身も自分のせいで人が不幸になることを望んではいなかったからです。 みんな雛ちゃんにお礼を言いたいのに。 みんな雛ちゃんとお話ししたいのに。 その願いが叶うことはありませんでした。 ある日のことです。 雛ちゃん達の住む幻想郷に、突然新しい神様がやってきました。 名を『八坂様』といい、山の頂上に社をかまえたその神様は、とても強い力を持っていました。 八坂様が幻想郷のみんなに受け入れられた頃、八坂様が『みんなのために自分の身を犠牲にしている神様がいる』という噂を聞いて、雛ちゃんのところにやってきました。 突然の来訪に驚いている雛ちゃんに、八坂様は言いました。 あなたは人々のために自らを不幸にしている。 厄を自らの周囲に取り込み、人々から離れ、自ら独りを選んでいる。 これだけのことはなかなか出来るものではない。辛くはないのか。 雛ちゃんは驚きながらも、そっと胸に手を当て、ハッキリと答えました。 辛くない、といえば、嘘になるかもしれません。 ですが、同時に私は、幸せを感じているのです。 私は神の身でありながら、あなたのように強い力は持っていません。 信仰で誰かを救うことも、知恵を授けることも出来ません。 でも、そんな私でも。 厄を集めることで、誰かを笑顔にすることが出来たのです。 こんなちっぽけな私でも、誰かに幸せを運べるのです。 神にとって、こんなに幸せなことはありません。 だから私は厄を集めるのです。 私には、これしかないのですから・・・ 雛ちゃんの言葉を、八坂様はじっと聞いていました。 そして、微笑みながら言いました。 よく解った。あなたは本当に優しい。 だが、あなたは大切なことを忘れている。 人々の感謝の気持ちはどうなる? 厄を吸われた人々は、あなたに助けられた人々は、みんな一度お礼を言わないと気が済まないと言っている。 感謝を伝えられなければ、みんな心の底から笑うことが出来ないようだ。 八坂様の言葉に、雛ちゃんはハッとなりました。 今まで雛ちゃんは、自分への感謝など必要ないものだと考えていました。 ですが、雛ちゃんがとても優しいように、幻想郷の人々もまた優しかったのです。 言葉にできない程の『ありがとう』を抱えていながら、伝えることが出来ない苦しみを、優しい雛ちゃんが理解できないはずがありません。 では、どうすればよいのですか? 私の周りは常に厄に取り囲まれ、何もかもを拒絶します。 私は、どうすれば、よいのですか。 雛ちゃんは悲痛な面持ちで、振り絞るように言いました。 簡単なことだと八坂様が言い、続けます。 厄を祓ってしまえばいい。 あなたは厄を集めるだけで、浄化することは出来なかった。 しかし、我にはその力がある。 あなたが今までに溜め込んだ厄を、全て我に差し出しなさい。 あなたは厄から解放され、人々と触れ合えるようになるだろう。 どうだ、簡単だろう? これは人々の願いであると同時に、我の願いでもある。 断ることは許されない。 さぁ。 ある日のことです。 雛ちゃんは人里に来ていました。 とっても可愛いらしいリボンを身につけて、とっても綺麗なドレスを身にまとっています。 そんな雛ちゃんは、ちょっぴり不思議な力を持っていました。 『近くにいる人の不幸(『厄』と言います)を集める』という程度の能力です。 厄を取られた人はみんな、悪いことが起きなくなって幸せになります。 だから、優しい雛ちゃんはいつもみんなの厄を取ってあげています。 でも、『厄を集める』能力は『厄を消す』能力ではありません。 雛ちゃんの周りにはいつも真っ黒な厄がいっぱい。 彼女に少し近づいただけで、厄が沢山くっついてしまいます。 だから、誰も雛ちゃんに近づこうとはしませんでした。 でも、今の雛ちゃんは違います。 今の雛ちゃんの周りに、あの真っ黒い厄は見あたりません。 その代わり、大勢の里の人々が取り囲んでいました。 ありがとう。ありがとう。 誰もが感謝の言葉を口にしています。 今まで伝えられなかった気持ちを伝えようと。 その中に、以前助けた男の子の姿もありました。 お姉ちゃん! その小さな男の子が、両親と手を繋ぎながら叫びました。 ありがとう! もう暗くないはずの雛ちゃんの視界が、ちょっとだけ滲みました。 それでも、少年の笑顔だけは、しっかりと見えていました。 優しい雛ちゃんは、もう独りぼっちではありません。 幻想郷一優しい神様は、幻想郷一愛される神様になりました。 それもこれも、みんな八坂様のお陰です。 ありがとう八坂様。 八坂様ありがとう。 ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・ ・・ ・ 「・・・というお話はどうでしょうか。雛さんも私たちも確実に信仰アップしますよっ!」 「巫女さんには悪いですけど、お断りします。っていうかなんで最後神奈子様中心で終わってるんですか」 というお話だったのサ。