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「テスト休みに、お前の家に遊びに行くか」
 何の脈絡もなくそう提案されたのが期末試験最終日から数えて二日目、あと三教科で勉強漬けの日々から解放される、とだいぶ気をゆるくしていたティータイ ムの雑談中だったものだから、セーシェルはうっかり禁止されていた言い回しを発動してしまった。
「くぁ?」
「や、やめろその髭野郎を思い出させることば遣いは!」
 イギリスの前で使うと毎度この反応なので、なるべく抑える努力はしているが、長年の習慣はなかなか抜けないものだ。
 本人とも毎日のように顔を合わせては舌戦か実戦を繰り広げるくせに、少女がフランスを想起させることは非常に嫌がる。
「ああ、俺色に染めたいって心理?横暴宗主国を持つと大変だよねえ。セーシェル、お兄さんの膝はいつでも空いてるからねー」
「どっから湧きやがった軟派男!」
 噂をすればというか、相変わらず高校生には見えない副会長が現れ、流れるような仕草でセーシェルの隣席に腰をおろした。
「もちろん、優雅にドアから入ってきたよ。生徒会室に俺が居てもどこも可笑しくない、イギリスとずっと二人きりにさせておくと危ないから」
「勉強教えてただけだっての」
 うう、と唸りながら、全力で追い出す口実を考えているイギリスに呆れながら、セーシェルは立ち上がり棚からカップを一客用意した。
 テスト前から放課後は生徒会室に直行命令が下り、ここしばらくひたすら問題集を解かされる日々が続いていたが(イギリス自身の勉強はいいのか、と尋ねた ら、皮肉げに口の端を上げられた)、紅茶で休憩していた所である。
 やって来たフランスにも淹れるのが筋というものだろう。



 カップの中身を啜ったフランスは瞳を細めた。
「ああ、ほんとにお茶を淹れるのがうまくなったな、セーシェルは。温度も濃さも絶妙だ」
「ほんとですか?まゆ……イギリスさんにはまだまだだ、ってダメだしされるんですけど」
「こいつは異様にこだわるからねえ」
 和やかに談笑していると、向かい側のイギリスがみるみる不機嫌になっていくのがわかった。
「……おい、俺のお代わりも淹れろ」
 ぐい、と乱暴にカップを差しだす。さっきはむしろ楽しそうにしていたくせに。
「はいはい。で、話のつづきをしてください。またどうして私の家に?テスト休みはあさってからですけど」
 テストが終わると、WW学園は二週間弱のテスト休みに入り、終業式まで登校する必要がなくなる。
 寮も閉鎖し、殆どの生徒は自分の家に帰り、不在中の穴埋めをするように仕事をする、らしい。休暇とは名ばかり。学業と「国」との両立は困難なのだ。
 セーシェルは期末試験を迎えるのは初めてなので、クラスメートから聞きかじった知識でしかないけれど。
「イギリスさんは私以外に山ほど植民地持ってる大国なんだから、やることだって沢山あるでしょうが」
「俺は日頃から大量の仕事を片付けてるんだよ。無視したくても本国から送り付けられるからな。だから、この時期は余裕があるんだ」
 フランスもしたり顔で頷いているので、大国なりの事情があるようだ。授業と生徒会だけでもかなりハードだと思っていたセーシェルは感心してしまう。
(やっぱり、島暮らしがのんびり過ぎたんだろうなあ)
 そこでだ、とイギリスが続ける。
「冬に南の島も悪くないだろう、せっかく植民地にしたんだしな。お前の家でバカンスをする」