「まずは経緯からお話します。 去年の夏頃、私はある男の子と知り合いました。名前はジャン・ポール・ヤードという7歳の少年です。 先程言い当てられました通り私は歌手をしているのですが、いつも仕事がある訳ではありません。 丸一日空いていることも稀ではなくて、そういう日は人の少ない公園で歌の練習をしています。 彼とはその練習中に知り合いました。 私が歌を歌い終えた後に彼が話し掛けて来たことがきっかけでした。 最初は戸惑いましたけれど、彼が知り合いの子によく似ていたこともあって、 何度か会う内に少しずつ親しくなっていきました。 しかし、頻繁に会うようになってからある疑問が生まれました。 小さな男の子が何故一人で公園にいるのでしょう。 気になって彼に尋ねてみると、どうやら彼の両親は日中家に居ないため、 代りに公園の近くにあるおじいさんの家に預けられているらしいんです。 数日後、彼に連れられるままに訪ねてみると、そこには古い一軒家があって、 彼のおじいさん、ブリック・ヤード氏と女中のレドルさんが暮らしていました。 二人とも優しい方で、ジャン君をとても可愛がっていました。 私に対しても、初めて会ったにも拘らず、優しく接して下さったことを今でも覚えています」 「そのおじいさんが今回の依頼に関係してるんだね」 「そうです。実はつい先日、おじいさんが亡くなってしまったんです。 検死の結果、死因は持病の悪化とのことでしたので、その点に関しては追究するつもりはないのですが、 おじいさんの部屋からあるものが忽然と姿を消していたんです」 「お金とか宝物とか?」 私が問い掛けると、チハヤは少し難しい顔をして、 「私にはどのような価値があるのか分からないのですが、小さい彫刻でした。青い鳥の」 「青い鳥?」 「ええ、とても綺麗な色をしていました。空よりも青く、海よりも明るい色でした。 目には澄んだ藍色の丸い宝石が入っていたと思います。 おじいさんの書斎にある棚の中にいつも納められていて、 時折取り出しては私たちに見せて下さいました。 確か、その時のおじいさんの話では、遠い昔の有名な彫刻家が製作したものだと。 もしかしたら大変貴重な品なのかもしれません」 「いつ頃無くなったの?」 「おじいさんが亡くなる前日にはまだあったと女中のレドルさんは仰いました。 それから、葬儀が終わった後で私とジャン君が荷物の整理をした時にはもう消えていました。 おじいさんの形見なので、絶対に見つけなければと思って、 どこかに落ちてはいないかと二人で家中を探しましたけれど、影も形もありませんでした」 「無くなったことについてチハヤさんはどう思うの?」 「私は…誰かが盗んだのではと思います。 おじいさんはお金に困っている様子ではありませんでしたし、 あんなに大切にしていたものを簡単に手放すとは到底考えられません。 それに、棚にはいつも鍵が掛かっていて、私たちが後から見た時も鍵はそのままで 壊された形跡もありませんでした」 「誰かが鍵を盗んだ可能性は?」 「あり得ません。鍵は常にレドルさんが肌身離さず持っています。彼女が盗むとも思えませんし。 それに青い鳥があの家にあると知っているのは、私、ジャン君と彼の両親、レドルさん位です。 あの家に訪ねてくる人は何年もいなかったそうですから」 「つまり、犯人は身内にいるってこと?」 「それが…よく分からないんです。 一番怪しいのはジャン君の父親ケイル・ヤード氏です。大変乱暴な性格らしくて、 家には殆ど帰ってこないし、おじいさんに何度かお金を借りに来たことがあると レドルさんからお聞きしました。 ただ、もう数年姿を見せていないようなので、果たして断言できるかどうか…」 ミキは両手で頬杖をついて、うーん、と考え込んでいた。 「何かもうちょっとヒントがあるといいんだけど」 「ヒントですか…あっ!そういえば言い忘れていた事がありました。 おじいさんが亡くなる前日の夜、レドルさんはおじいさんの部屋から話し声を聞いたそうです。 まるでおじいさんの独り言のようだったと」 「レドルさんは相手の顔は見てないんですか?」 「ええ、声が聞こえた時、ドアをノックして尋ねるとおじいさんは誰もいないと答えたため、 気にしなかったそうです。やはり一度、家にお越し頂いた方が…」 「あっ!そういうことなの!」 ミキがいきなり大声を上げたので、私もチハヤも驚いてしまった。 「そういうことってどういうこと?」と私が聞くと、 「あのね、今のでだいたいの見当がついたの。チハヤさん、もう幾つか質問してもいい?」 「勿論かまいません。何でしょう?」 「まず、ジャン君のお母さんはこのことについて何て?」 「よく分からないと仰っていました。お母さんには葬儀の時に初めてお会いしたのですが、 自分は仕事で忙しいし、夫にはもう関わりたくないから、例え夫が犯人でも探す必要は無いと」 「やっぱりね。じゃあ次に、おじいさんはいつもジャン君と何をして遊んでいたの?」 「ええと…私が仕事について考えていた時、おじいさんは邪魔になるといけないからって、 ジャン君と本を読んでいました。そうです、彼に聞いたら、遊ぶ時はいつも本を読んでくれると言ってました」 「うん!かなり分かってきたよ。後は青い鳥を見つけるだけだね」 そう言ってミキは立ち上がると、デスクの方へ歩いて行き、 手紙を取り出して何かを書き始めた。 「ミキ、そんなこと言っても、青い鳥がどこにあるか分からないんだよ?どうやって見つけるの?」 「私もそう思います。スターウェルさん、何かお分かりになったんですか?」 「まぁね」 ミキは手紙を畳んで封筒に入れ、丁寧に封をするとチハヤに手渡した。 「チハヤさん。これをジャン君に渡して下さい。あ、でも、チハヤさんは絶対読んじゃ駄目だよ。 ジャン君のお手伝いもしちゃ駄目だから」 「は、はい。分かりました」 「多分、早くて四日、遅くても一週間位で見つかると思うから」 「では青い鳥の在り処が分かったんですね」 「ひゃくぱーせんとじゃないけど、きっと大丈夫なの。もしも見つからなかったらまた来て下さい」