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●ショートショート大賞 年1回、オリジナルショートショート作品を募集しています。 (秋頃に作品募集、詳細は、募集要項をご覧下さい) |
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第7回ショートショート大賞 |
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■第7回大阪ショートショート大賞」 【募集要項】 募集作品:「夢」をテーマにしたオリジナル小説 規定枚数:400字詰め原稿用紙 5枚以内 応募資格:不問 選考委員:SF作家 堀晃先生、高井信先生 応募要項:手書きの場合は、400字詰め原稿用紙にタテ書き。ワープロ等を使用する場合は、A4用紙にタテ書き20字×20字で印刷。 「作品タイトル」「作者名」「郵便番号」「住所」「電話番号」「年齢」「職業」を記載した別紙を作品の上に添付すること。 締切日:郵送、2005年9月30日(消印有効) 著作権:受賞作の著作権は、主催者側の譲渡。 賞 金:大賞1作 賞金:5万円 副賞として、エンターテインメントノベル講座の学費一年分免除(諸費等は個人負担)なお、大賞受賞者が副賞を辞退した場合は、佳作の第一席受賞者に譲渡。 佳作1〜2作 賞金:1万円 応募先、問い合せ先:553-0006 大阪市福島区吉野4-29-20-113 大阪NPO プラザ1階 創作サポートセンター 大阪ショートショート大賞係 TEL:06-6468-5161 |
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第7回ショートショート大賞/受賞作・選評 |
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第7回大阪ショートショート大賞 受賞作品 大賞 (該当作なし) 入選作 ごあいさつ 道野重信(大阪府) 入選作 途切れた風景 齋藤尚規(山梨県) 佳作 閉幕のベルは一度だけ 井手孝史(東京都) 予備選考通過作品 13 眩暈 仲間秀典(長野県) 19 夢の復讐 酒光永治(奈良県) 27 レギュラーの座 小田由美子(佐賀県) 36 英雄夢 西森 勉(大阪府) 51 オフクロ 近藤 廣(大阪府) 57 朝食のあとで 道下洋一(大阪府) 60 目覚め 栗林恵理菜(滋賀県) 94 君は夢を見ますか? 近藤壽郎(滋賀県) 103 世界最高の落とし穴 大渡雄太(岩手県) 121 華胥の国で 松平光子(大阪府) 123 ファーザーと呼ばれた男 長島麻美(茨城県) 130 ドリームワールド 成田幸平(神奈川県) 143 クムパッタ(夢を見た) 朴 裕貴(東京都) 151 ユメノナルキ 藤井 雅(茨城県) 152 ドリーム・シアター 広川英二(福岡県) 第7回大阪ショートショート大賞・入選作 ごあいさつ 道野 重信(大阪府) どうしよう。 これは夢かな。 どうやら現実らしい。 ぼくは、交際してる彼女の父親と向かいあって、和室で正座している。 父親は和服だ。黙って煙草を吸っている。 今日、ぼくは、あいさつに来た。 はじめて会うのだが、結婚させてください、とはっきり宣言するつもりだった。 緊張するのは最初だけで、話し出したらすぐにうち解けて、談笑になるはずだと思っていた。 彼女との結婚を考えるようになってから、彼女の家へのあいさつを何度も夢に見た。 ずっと今日のことを考えて、緊張していたのだろう。 でも、夢で見ている分、シミュレーションは十分という気になっていた。 心配することはないと思っていた。 予想外だ。 「なんで?」と、ぼくは小声でぼくの隣に正座している彼女に話しかけた。 「え?」 「なんで、お父さんが六人もいるんだ?」 「だって、お母さんが六回結婚してるから」 「全員呼ばなくてもいいんじゃないか?」 ぼくの目の前に、六人の父親たちが一列にならんで座っている。 どうしよう。 「えーと、山本くんだったね」と、右端の父親が長い沈黙をやぶって口を開いた。「お仕事は何をしてるのかね」 「出版社の営業なんですがノノ」 「ほう」と、六人の父親が同時に身を乗りだした。 「仕事は忙しいのかね」 「休みはとれるのかね」 「失礼だが、お給料はどれくらいなのかな」 「趣味は何かね」 「うちの娘とつきあいだして、どれくらいなのかね」 一斉に質問されて、ぼくはあいまいに笑った。 「きかれたことには答えたまえ」と、左端の父親が言った。 「ノノ交際をはじめてちょうど一年になります」 「給料はいくらかときいたのだ」 どうしよう。 そのとき、ぼくの手がそっと握られた。 見ると、彼女がぼくの手を握っている。 「がんばって」と、彼女は言った。 ぼくは心を決めた。 「おとうさん」 「はい」と、六人が答えた。 「ぼくたちの結婚を許してください」 「いいよ」 「だめだ」 「だめだ」 「いいよ」 「だめだ」 「いいよ」 「三対三だわ」と、彼女はうつむきかげんでつぶやいた。「お父さんの意見が割れたわ」 「ちょっと待ってくれ」と、ぼくは彼女に言った。 「もう一人お父さんがいたら多数決がとれるのに」 「そういう問題かよ」 「うちに、お父さんさえいれば」と、彼女が泣きだした。 その姿を見て、反対している父親たちが動揺した。 「いいよ」 「いいよ」 「いいよ」 意見が修正された。 「全員一致ね。わたしたち、結婚できるわ!」 彼女がぼくに抱きついてきた。 六人の父親は男泣きしている。 どうしよう。 夢に見そうだ。 第7回大阪ショートショート大賞・入選作 途切れた風景 齋藤尚規(山梨県) 私が美沙をつれて遠出するのは久しぶりだった。今年は主人の三回忌に当たる。墓参りに行こうと思ったのだ。 美沙はお父さんに買ってもらったビデオカメラを、電車の中でも首から下げて大事そうに抱えていた。私からのプレゼントは失くしてしまうのに、ビデオカメラだけは片時も離さない。それどころか、私が借りようとしても絶対に触らせない。 美沙は亡夫の連子である。夫は結婚してわずか二ヵ月後に、飲酒運転の若者にひき殺された。美沙と親子関係を作るのに、夫の死はあまりにも早すぎた。 二人の間に漂う冷たい空気を乗せたまま、電車は海岸線を縫うようにして進んでいく。 「海が奇麗だね」 「そうだね」 硬い会話が途切れると、美沙はレンズキャップを外して自分のおでこにあてた。祈るような仕草で撮影を始める。 「レンズの向きが逆よ。それだと美沙のおでこしか映らないでしょ」 美沙は答えない。私は美沙さえいなければ好きなように恋愛できるのに、と何度も思う。同世代の友人の多くはまだOLであり、恋愛の現役選手だ。私はというと美沙のために食事をつくり、洗濯と掃除をこなすという母親としての義務を押し付けられている。唯一の社会の窓といえば、夫の死亡保険金だけでは不安なので出かけているレジ打ちのパートぐらいだ。職場でも子供がいるというだけでおばさん扱いだ。OLを続けている友達は輝いているように見える。 「ねえ、美沙」 美沙はビデオカメラを回し続けている。私は心の声を押し殺していた。美沙がいなければ普通のOLに戻れる。楽しい恋愛ができる。無口で無愛想なガキを連れて亡夫の墓参りに行く姿は、まるで人生の終着駅みたいではないか。 美沙は撮影を終えると、先ほど撮った映像を真剣に見ている。電車が止まり、象のため息のようなエアーが抜ける音がした。美沙は両目に涙を浮かべながら、テープを巻き戻し、今度はレンズを窓に向けて撮影を始めた。私を無視するような美沙の行動に、私は我慢ならなかった。 「人をバカにするのもいい加減にしなさい。私が実の母親じゃないから意地悪してるの? 何が不満なの? 美沙が大好きだったお父さんはもういないの。分かるでしょ」 私は美沙に手を上げた。弾みでビデオカメラが落ち、私の足元に転がる。私は美沙より先にビデオカメラを取り上げた。 「さっきから何を撮ってるのよ」 美沙は私からビデオカメラを取り戻そうとする。しかし、私は左手で美沙を抑え、強引に巻き戻してテープの中身を確認した。液晶画面が明るく光りだす。 「これは、何ノノ?」 奇妙な映像だった。電車の中だったり、自宅の庭だったり、学校だったり、身近な風景がシャッフルされた紙芝居のように脈絡なく続いている。急に画面が変わった。化粧をした私がスーツに身をつつみ、颯爽と街を歩いている。友人たちと最新ブランドの品定めをし、同年代の男性と楽しそうに食事をしている。頭で何度も思い浮かべた風景。それが現実の映像として目に飛び込んでくる。 美沙と目が合った。悲しそうな目だった。 「私ね、ビデオをおでこにつけると、テープの新しい部分に、人の夢を映すことができるの。お母さんの夢、お父さんが死んでから、いつも同じ。知らない人と、楽しそう」 液晶画面の中の私はまだ動き続けている。美沙は一コマも出てこない。 「こんなお母さん、見たくない。だから、風景を撮影して、上書きして消してるの」 私は再びテープを巻き戻し始めた。途切れた風景が無限と思えるほど続く。途切れた回数だけ美沙は傷つき、悲しんだ。 テープが先頭に近づいた。数えきれないほど途切れた風景の後で、三年前の家族が現れた。私は先頭までスキップすると再生ボタンをおした。私と夫の間に美沙がいる。バースデーケーキの上に立てられた五本の蝋燭を、美沙が勢いよく吹き消す。何の変哲もない家族の肖像があった。これは美沙の夢だろうか。 「自分で、自分の夢は映せないの」 美沙は答えた。三年前、きっと私が見ていた夢なのだろう。家族で楽しく過ごしたい。今となっては、失ってしまった夢。それを、美沙は消さずに大事に守っている。 私は美沙を抱きかかえると、腕を伸ばして二人にビデオカメラを向けた。黒水晶のようなレンズに二人の姿が映る。 「いまは本物の映像だけど、いつか私の夢として、真新しいテープに撮影してね」 美沙は小さくうなずいた。赤の他人同士が家族になれることを、信じようと思った。 第7回大阪ショートショート大賞・佳作 閉幕のベルは一度だけ 井手孝史(東京都) 「はい、本番入りまーす! 五秒前ノノ四ノノ三ノノ二ノノノノ(!)」 はて、僕は何をしているのか。僕は階段を登っている。積み木のように並ぶ住宅地の間を、どこまでも上に伸びている階段。一匹の猫が、僕を追い抜いて先に走っていった。 ふわふわした雪が舞い降りる。その欠片が猫に落ちた瞬間、猫の姿が消えた。いや消えたと言うより、真っ白になった。雪が手すりに落ちると、手すりも真っ白になった。周りがだんだん白の斑模様に変わり始めた。 全てのものが色が無くしたころ、僕は階段を登りきった。そこはエベレストの頂上だった。僕は寒さで催してきた。少し降りた斜面に公衆トイレを見つけ、そこに駆け込んだ。用を足して小便器の上のボタンを押すと、地面を揺さぶる大きな音が響いた。僕が外に出た途端、やって来た雪崩が、公衆トイレを飲み込んで流れていった。 遥か遠くの山の向こうに、太陽が沈んでいく。白い雪がオレンジ色に染まると、エベレストの山が紅葉に包まれた。 「ほぉノノやるじゃないか、美術の連中」 「ええ。最近はモノクロばかりでしたからね、久々のカラーで張り切ったんでしょう」 「そうか。ところで膀胱のほうは大丈夫か? 本当にされたらかなわんぞ」 「えーノノっと。はい、問題ないです」 「よし。じゃあ引き続き行くぞ!」 山に半分隠れた夕日が、突然朝日に変わって昇り始めた。僕は慌てて元来た階段を駆け下りた。学校に遅刻してしまう。 二段、三段と飛ばしていくうちに、踊り場から踊り場へとジャンプして降りていた。交差する階段を一回折り返すごとに、壁にある数字が小さくなっていく。僕は三階までたどり着くと、正面の廊下に飛び込んだ。 僕は自分の教室目がけて廊下を走った。少し前を歩いていた制服の女の子が振り向く。僕はつんのめって立ち止まった。ああ、もしやまさかあの子はノノ 「来たぞ! 俳優の準備いいか?」 「OKです、監督。今回は視覚メモリーにしっかりと焼きついていましたからね。複写も簡単でしたよ。 よーし。今だ、みさきちゃん入って!」 「はーい。よろしくお願いしまーす」 あの子はノノやっぱりみさきちゃんだ! 噂ではサッカー部の田中とデキてるって話だが、今彼女は僕を見て微笑んでいる! みさきちゃんは近寄ってきて僕の腕を取った。二人で廊下を進み、一ムAと書かれた教室のドアを開けた。そこは遊園地だった。ドアをくぐって振り返ると、張りぼての学校が建っていた。校門のところに『常盤高等学校』というアトラクション名が書かれていた。 僕とみさきちゃんは色んな乗り物に乗って遊んだ。一緒にアイスも食べた。最後に二人で観覧車に乗った。一番てっぺんに近づくとみさきちゃんは静かに目を閉じた。僕は身を乗り出した。みさきちゃんの唇目指して。 突然強い光が当たり、景色が揺らいだ。みさきちゃんの姿が見えない。どこ どこに行ったの! 「クソ! 照明、何やってんだ強すぎるぞ!」 「違います、監督! トラブル発生! カーテンの隙間から入った朝日が、目蓋に当たってるんです。このままだと、起きます!」 「何 そうか、体の各部署に連絡。すぐに寝返りを打たせろ!」 「はい! ノノ来ますよ、みんな何かに掴まって! うわあああ、揺れる!」 「うおおノノっと。よーし、これで回避できたな。さあ、時間が無いぞ! ラスト!」 「はい! じゃあ田中君たち、行って!」 再び現れたみさきちゃんは、酷く怒っていた。みさきちゃんは観覧車のドアを開け、僕を突き飛ばした。大きな歓声があがる。僕はサッカー場のコートに降り立った。 僕の足下にボールが転がっている。敵チームの田中がそれを取りに来た。僕はドリブルでかわして走り始める。さらに別の田中がボールを奪いに来る。かわす。三人目の田中が来る。 田中は増えに増え、ゾンビのように襲いかかってきた。僕は必死でボールを守った。もし渡したら死ぬ。田中ゾンビをなぎ倒し、僕はシュートした。ゴール前には十人の田中が整列していた。九人がボールに吹き飛ばされ、最後の一人もぐらぐらしながらついに倒れた。ゴールの上にメストライク!モと出た。 大きな歓声がこだまする。僕は手を振って応えた。ワーワーという声が、やがて毎朝耳にするあの音へと変わった。ジリリリリ。僕は気づいた。ああ。これは、ゆノノ 「カーット! OK、皆よくやった!」 「お疲れ様です、監督。目覚ましは止まってノノああっ、だめだ! アンコールです!」 「何、二度寝か こりゃあ遅刻するのは正夢になりそうだなノノ」 |
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選評(堀晃先生) |
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出題は「夢」 大賞 なし 入選 道野重信「ごあいさつ」 斎藤尚規「途切れた風景」 佳作 井手孝史「閉幕のベルは一度だけ」 第7回『ショートショート大賞』選評 堀 晃 先生 全応募作(193篇)から一次選考で選ばれたベスト18篇についてコメントします。 今回の出題は「夢」で、これは扱いにくい題です。 全体に低調というか、飛び抜けた作品がなかったのは、「題」を意識しすぎたせいかもしれません。 毎回、「題」を中心的なテーマやアイデアにする必要はないといっておりますが、「夢オチ」は避けねばならず、さりとて最初から夢の中の話と明かしてしまったのでは白けます。それぞれ工夫は感じられますが、全体に似たような作品が多かった印象です。 個別に読んだ上で高井信さんと協議しましたが、多少好みの差はあったものの、評価の順位はともにほとんど変わりませんでした。 結果としては、残念ながら過去の受賞作とのバランス上、「大賞」はなしとしましたが、上位の作品は、少し手を入れるだけで大賞レベルになる作品です。 ぼくが佳作にしてもいいなと思った作品には○印をつけました。 以下、個別のコメントです。 仲間秀典「眩暈」 女性客の語り口はうまいが、飲むピッチが速すぎ。マティーニ1杯に2、3枚くらいのペースで語るべき。その分肉づけして過去の修羅場を暗示しないと不気味な味がでません。 酒光永治「夢の復讐」 この種のガジェット(夢を見る装置)はSFではもう書かれすぎています。よほど使い方に工夫がないと。 小田由美子「レギュラーの座」 「夢」と「現実」がシンクロする典型的なパターン。最後の一行を生かすためには、どんな現実が待っているのかを暗示する伏線が必要です。(あるいはリドルストーリー的に、ハッピーな現実か不幸な現実かを提示するとか) ○西森勉「英雄夢」 コントだが、もうひとひねりあれば面白くできそうな。「敵がいない(わからない)ヒーロー」というずっこけた設定はユニークで、これをオチにしか使わなかったのが惜しい。 近藤廣「オフクロ」 設定の説明が不十分です。エリアの区分けがどうなっているのか、工場長はどんな立場にいる存在なのか……。詳しく書けば本格SF、オレの視点で徹底すれば不条理な雰囲気の作品になりますが、中途半端に終わっています。 道下洋一「朝食のあとで」 文章はいいですが、夢の連続という落語「天狗さばき」パターンで、もう一工夫ほしいところ。特に、読んではいけないノートの保管が安易すぎるのが難点(禁忌を破るスリルが殺がれます)。 栗林恵里菜「目覚め」 「二重の夢オチ」もやっぱり「夢オチ」パターンのひとつです。青春小説的な雰囲気はいいです。 ○道野重信「ごあいさつ」 設定の面白さと散文詩的表現がユニーク。無駄な行がいくつかありますが、「題」を意識しすぎたためでしょうか。この表現形式が「熟慮の上の選択」なのか「苦し紛れの結果偶然選択」されたのか、判断がつきません。汎用的な方法ではなく、いわば「一発芸」です。しかし、うまく決まっています。コンテストは作者よりも作品ですから上位にきます。 ○斎藤尚規「途切れた風景」 いい話で、最小限の人物と描写でふたりの葛藤と和解を描いていて、短篇の奥行きがあります。小道具の使い方もいいのですが、子供のとる奇矯な行動が不自然。むしろ、ある時期からなぜかビデオで自分を撮ってくれなくなり、そこから可愛さを感じなくなった……という方が自然と思います。無理に疑似科学的考証をする必要はありません。 ○井手孝史「閉幕のベルは一度だけ」 筒井康隆氏の短篇を思わせるが(「最後の伝令」など)、「題」と表現形式とユーモア感覚のバランスがよくとれています。もっと不気味なイメージを持ち込んで悪夢にするとか、あるいは艶夢(ポルノ)にするとか、色々な手もありますが、日常的な夢にとどめた……これが「抑制心」からか「未熟」なのか、判定が難しいところ。ぼくは悪夢や艶夢にしなかったのは正解と思いますが、夢の演出にも後半にクライマックスがほしかったところです。 近藤壽郎「君は夢を見ますか?」 夢オチかと思わせて××××オチという工夫はわからないではないですが、やはりこのオチは「禁じ手」の範疇に入ります。タイトルから見て、SFをよく知っている方と思いますが……。 大渡雄太「世界最高の落とし穴」 山中の研究所にする必要はなく独裁国家にする必要もありません。普通の企業の研究所に設定した方が「日常のすぐ隣りにある危険」というテーマがもっと強く出ます。オチはもっと工夫できるはず。閉じ込められる方が面白いのでは。 松平光子「華胥の国で」 夢と現実が正反対の状況に入れ替わるというのも夢オチの変形です。この場合、ふたつの状況の落差がよほど極端でないと面白くありません。 ○長島麻美「ファーザーと呼ばれた男」 面白いアイデアだけに惜しい。前半の描写がモノローグだけなのが弱いし、ハードボイルドにもなっていません。たとえば煙突から忍び込むのを得意とする「怪盗」にするとか、もっと動きのある場面で後半を期待させる工夫があれば面白くなります。 成田幸平「ドリームワールド」 「夢見装置」の国家版で、これもよくある設定です。というか、設定を作ってみせただけの印象です。ここからお話をスタートさせて、意外な陥穽に落とし込む……それですらまだ定型的ですが。 朴裕貴「クムパッタ(夢を見た)」 ごくストレートな書簡体で、韓国語との混在が効果的ですが、「お話」にはなっていません。「韓国語のできない自分」と「韓国語を喋る日本女性」という組み合わせは、それだけで恋愛ドラマになります。恋人ができた経過をおばあちゃんに報告するだけでもドラマ風になりそうですが。 藤井雅「ユメノナルキ」 文章には表現力が感じられるのですが、夢幻的な世界の描写があまりにも独りよがりで、イメージがよく伝わってきません。色々不思議な名前のものが登場しますが、これらをもっと視覚的なイメージで伝えてほしい。 広川英二「ドリームシアター」 「夢を見るのが三度のメシより好きな男」を登場させるなら、現実の世界は夢とは対称的にリアルに描かないと効果がありません。夢と現実の大きなギャップがあってこそオチが生きるのです。 |
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選評(高井信先生) |
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選評 高井 信 先生 残念ながら、昨年に続いて今回も、大賞受賞作はなし、ということになりました。アイデアがよくてもプロットや結末に無理や矛盾があったり、逆に、プロットはうまくできているのにアイデアが平凡だったり……。 堀晃さんと協議した結果、今年は入選作二編、佳作一編と決まりました。 以下、順にコメントしていきます。 【入選作】 「途切れた風景」齋藤尚規 短いなかに短編小説の味わいがある佳品。ただし、疑問点もあります。「自分の額に当てると、他人の夢を録画できるビデオカメラ」というのには、何かそういう設定にしなければならない理由があるのでしょうか。「他人を映すと、その人の夢が録画できるビデオカメラ」としたほうが、ずっとすっきりすると思いますが……。 「ごあいさつ」道野重信 笑いました。文章のリズムが抜群にいいです。問題は結末ですね。短編小説ならば(つまり、結末に至る展開がもっと起伏に富んでいれば)、これで充分かもしれませんが、ショートショートとなりますと、これでは拍子抜けします。六人のなかに彼女の本当の父親がいるわけで、その父親の存在に全く触れられていないのも気になります。本当の父親をうまく使えば、結末も変わってくるのではないでしょうか。あるいは、「六人のなかに彼女の本当の父親はおらず、実は浮気相手の子どもだった」とすれば、その相手--七人目の父親が多数決のキャステイングボートを握る人物になりますね。 【佳作】 「閉幕のベルは一度だけ」井手孝史 夢(のなかの主人公)と現実(の演出家?)のリンクのさせ方はうまいと思います。が、演出家がいるにしては、夢のなかの出来事が陳腐です。それも、だんだんと陳腐になっていくんですね。これは逆にしなければなりません。もともと夢は不条理なものなのですから、もっと徹底的にぶっとんだイベントを用意するべきでしょう。 「眩暈」仲間秀典 いったい何を言いたいのか、理解できませんでした。この小説は、女性主人公の独白のみで構成されています。主人公は酔っ払って、支離滅裂なことを口にしているのでしょうか。途中では「(交際相手が)急に行方が知れなくなってしまった」と言っていたのに、最後では「自分が殺して、死体を始末した」と語っています。確かに現実では、そういう話し方をする人もいるでしょうが、小説では、なぜ急に告白する気になったのか、そのへんの心理を書く(あるいは、書かなくても、読者がそう読み取れるような表現を入れる)ことが必要です。 「夢の復讐」酒光永治 ショートショートとしての骨格はできていますが、残念ながら、平凡なアイデア、常套的な展開、想像できる結末と言わざるを得ません。 「レギュラーの座」小田由美子 うまくプロットが作られていて、ショートショートとしての完成度は高いですが、残念、アイデアが平凡です。 「英雄夢」西森強 ナンセンスな話で面白いのですが、結末で拍子抜けします。枚数に余裕があるのですから、ドタバタの展開に持っていったらどうでしょう。 「オフクロ」近藤廣 設定自体は面白いのですが、無理やりテーマ(夢)に合わせているという印象を受けました。夢から離れて、短編化してみてはいかがでしょうか。なお、冒頭の「一糸まとわぬ全裸」「グレー色」という表現ですが、これは「一糸まとわぬ姿」あるいは「全裸」、「グレー」あるいは「灰色」とすべきです。 「朝食のあとで」道下洋一 いろいろと構成に凝っていますが、要するに、「実は正夢であった」というアイデアです。結末、なぜ妻が夢と同じ行動(包丁を持って出現)をとるのでしょうか。そこまで過激な行動をする理由がわかりません。 「目覚め」栗林恵里菜 設定は短編小説風、内容は最近流行りの“実話怪談”風。作者が書きたいのは短編小説なのか実話怪談なのかショートショートなのか。中途半端です。 「君は夢を見ますか?」近藤壽郎 アンドロイドの見る夢というのは魅力的なテーマですが、あまりにも淡々とストーリーが進みすぎていて、アンドロイドの苦悩や悲哀が伝わってきません。 「世界最高の落とし穴」大渡雄太 着眼点はよく、面白く読みましたが、結末に無理があると感じました。コンピュータが認証拒否する条件として「顔の怯え」があると書かれていますが、そこに「緊張」も加えてみてはいかがでしょう。大統領が隣にいれば、「緊張」しますよね。 「華胥の国で」松平光子 きっちりとしたプロット、ショートショートらしいフレーバー。完成度は高いのですが、いかんせん、「夢と思ったら現実で、現実と思ったら夢で……」というアイデアは、現在ではもはやアイデアとは言えないでしょう。タイトルも一考のこと。 「ファーザーと呼ばれた男」長島麻美 いいアイデアですが、それを生かしきれていません。「自伝的要素が強いハードボイルド」ではなく「ハードボイルド・タッチで書いた自伝」とし、その後のモノローグ的部分は短く短く。たとえば、「おっ、そろそろ仕事の時間だ。部屋の外では相棒--トナカイのルドルフが待っている」と、これだけで充分ではないでしょうか。 「ドリームワールド」成田幸平 設定も展開も面白いのですが、やはり問題は結末です。何かどんでん返しが欲しいところです。 「クム パッタ(夢を見た)」朴裕喜 ごく普通の手紙としか読めませんでした。ショートショートは短いとはいえ小説ですから、何か、小説ならではの仕掛けが必要です。 「ユメノナルキ」藤井雅 これは童話ですね。夢使い、夢秤王など、登場するキャラクターは魅力的なネーミングなのですが、残念ながら、今ひとつその魅力が伝わってきません。これは、説明不足に起因しています。夢使いとは何者か、夢秤王とは何者か。きっちりと説明してください。 「ドリーム・シアター」広川英二 アイデアも結末も面白いのですが、文章に問題がありすぎますし、原稿用紙に文章を書く際の基本的なルール(あとで述べます)についても、全く守られていません。それらがクリアされていれば、上位に食い込んだことでしょう。惜しいです。 全体を通して感じたのは、作品のレベル以前の問題として、原稿用紙の基本的な使い方を知らない人が非常に多いということです。 改行した際、次の文章は一マス下げる。会話の閉じカッコ(」)の前には句点(。)はつけない。「!」や「?」のあとには句点はつけず、文章を続ける場合は一マスあける。リーダー(…)は一マス三点で二マス分(……)。リーダーを中黒(・)で代用しない。ダッシュ(--)も二マス分で、音引き記号(ーー)とは違う。などなど……。 これらは原稿用紙に文章を書く際の基本的なルールです。とりあえず、市販されている本をじっくりと観察してみてください。できれば、一ページでも二ページでもいいですから、その文章を正確に(これが重要)原稿用紙に書き写してみることをお勧めします。 |
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