【リミット】 「はぁ・・・はぁ・・・」 私は急いでいた。 走ってはいない、ただただ自分の幸せのためにゆっくりと急いでいた。 それは、今日帰ってからの事。 深夜業務とサービス残業を終え自宅に帰りつくと一通の折込に気づいた。 チラシというよりは何かのお知らせみたいで、紙にはこう書いてあった。 『本日の夕方より工事で断水いたします』 私は絶句した。生活の習慣になってしまっているのか、私は家に帰ると真っ先にお手洗いに行く。 断水という事は水が使えない、つまり私はその習慣を果たす事ができないのだ。 眼前の絶望、迫りくる尿意。 あらゆる解決策を私は頭の中で考えた。 まずは断水を気にせずにそのまましてしまうのはどうだろうか? いや、断水時間は結構ある。その間中ずっと流せぬ黄金色の刺激臭を放つ液体を溜め続けるのはヤバイ。 何がヤバイって臭いもそうだが手を洗えないのが一番ヤバイ。 では童心に戻ったつもりで立ちションという手はどうだろうか? これは一番ヤバイ選択肢だ。 なにしろ今は天高くお天道様が輝く真昼間であり、人が一番良く出歩く時間帯。 住んでいるアパートの塀の隅で用をたし、他の住民に見られでもしたら私の地位は最低ランクに落ちてしまう。 成人として、モラル的にもこれはヤバイ じゃあどうするべきか・・・ 私は悩んだ、あまり時間をかけられないから1秒ほど悩んだ。 そしてある答えを導き出した。 「そうか、コンビニに借りに行けばいいんだ!―――ぅ」 この叫びはヤバかった。声を出すという行為自体がヤバかった。 声を出した振動が膀胱に伝わり、私に残された僅かなタイムリミットを更に縮めてしまう。 しかし答えは出た、断水地域外のコンビニに向かえばよいのだ。 私は断水地域を見る。これの外で一番近くトイレを貸しているコンビニを考える。 これだと、サークルKサンクスが一番近いな。 タイムリミットの都合上0.5秒で答えを導き出す。人間やればできるものだ。 さて、ここで更なる問題が浮上する。 移動手段だ。 自身の持つ最速の手段は自転車である。 しかし自転車はサドル部分でピンポイントで刺激してしまい、立ち漕ぎでも振動が膀胱を刺激する。 つまりアウトである。 ならば残された手段は後一つしかない。 そう、徒歩である。 徒歩であれば刺激しない程度で移動でき、膀胱への負担の少ない歩き方ができる 問題はタイムリミットとの戦いだけだが、手段はこれしかない。 私は覚悟を決めるとそっと家を出た・・・ 「はぁ・・・はぁ・・・」 これは永く厳しい、美しく素晴らしい未来を勝ち取るためのそんな戦いである。 fin