〜シキ・りん〜 手をつないだまま非常階段を上がり続ける。 足元は暗く、シキはりんのために足元を照らしていた。 一段一段を慎重にあがるも何の問題もなくラボラトリのある階に到達することができた。 「薬臭いですね…」 「うん…医務室のドア、空きっぱなしなのかな?」 やけに濃い薬の匂いが立ち込めるその階の廊下を進み始める。 いつもは音の洪水で気づかなかったが、視覚もほぼ働かず聴覚と嗅覚だけが敏感な今では すでに誰もいないはずの医務室の空気で充満しているような錯覚に陥った。 ふかふかの絨毯に“気を付けて”とりんを促しながら進む。 停電であっても動き続けている整備室からの不気味な機械音に肩をびくつかせるりんを 微笑んで励ましながらラボラトリを目指した。 ドアが閉まってはいるが鍵は開いているはずのドアを軽くトントンと叩く。 中から間延びしたDjangoと思わしき返事が聞こえたのを合図にギィと音を立てて中に入った。 「おー始まったか。一番手はお前らなのね。ちゃんと女の子をエスコートするんだぞ、シキ」 「エスコートって…」 いつもの全身白い制服に身を包んだDjangoがデスクにどかりと座り、2人を迎えた。 部屋の電気はむろんついておらず、代わりに小さいランプのようなものが部屋をほんのり明るくしていた。 そのデスクに近づくとDjangoはごそごそと懐を探って固形物の入った袋を取り出す。 ここへ無事たどり着いた証拠となるレーションだ。 これを持って皆のところへ帰り、懐中電灯を次のグループに手渡せば終わりとなる。 特に何か起こることを危惧していたわけではないが、シキは思わずほっと溜息をついた。 「ここの廊下、怖かったろう」 「うん…というより、薬臭かった」 「おう!故意に薬箱開けっ放しにしてあるからな!」 「うわ」 大人げない、と言おうとして口を開きかけたがぐっと飲み込む。 横でうわあと涙目で震えるりんに申し訳ない気がしたから。 なんだかかわいそうになって未だ握っていた手をきつく握りなおした。 「…大丈夫だから」 「…ありがとう、シキ君」 「おやおや」 面白そうにその光景を眺めるDjangoを無視してさっさと終わらせようとホールへ引き返し始めた。 「…さて、1番手があのシキか…2番手は誰かな?面白いやつだといいなぁ…な!」 背後の暗闇に向かってDjangoがにかっと1人で笑った。 やはり薬臭い廊下を歩きながらりんをちらりと盗み見る。 行きよりいくらか安心したような顔をしているが、やはり怖がっている。 いつもは最前線で剣を振り回すゴッドイーターもやはり普通の少女だった。 実際、この暗く夜の病院を思い起こさせる廊下にはシキも若干の動悸を感じていた。 りんが何かに躓かないよう注意を払いつつも、歩く速度を上げて階段に足を掛けた。 「「おっかえりなさ〜い!!」」 ホールではやたら元気なミツキと角治郎が2人を出迎え、どうだった?としつこくまとわりついてくる。 興味のないふりを続けつつ“何もなかったよ”と平然と答えて2人をがっかりさせた。 りんはミトとアミエルの待つ女子グループへ駈け出して2人と抱き合ってゴールを喜んだ。 うるさい2人を黙らせるため自分で考案したとはいえ肝試しなんて、と思ってはいたが 意外と楽しんでいる自分に気づいてシキはこっそり笑みを浮かべた。 「さて、次は誰?」