〜ヴァレンジア・レイ〜 「はいはーい!3番手、だーれだ!!」 悲鳴を上げる者が出たのがそんなに嬉しかったのか、テンションが上がった角治郎が懐中電灯を振り回している。 面倒だが、行くと答えてしまったのだから仕方がない。 ヴァレンジアはひょいと懐中電灯を取り上げて進み出た。 「レイ、行くぞ」 「ん」 「なーんか…つまんなそうな2人…」 物静かに歩き出した2人の背後からミツキと角治郎の不満げな声が追いかけた。 「………」 「………」 暗い非常階段に靴音だけを響かせながら進んでいく。 横を歩くこの白いスナイパー服を着た男にちらりと目線を向けると、すぐに気づいてこちらを向いた。 特に話したいことがあったわけでもないが、肝試しという遊びのイベントであるのに 一言も話さず進んでいくには少々気まずい物もある。 何か話さなくては、と、普段は使わない気を回して口を開きかけて閉じた。 話題がない。 「…暗いな」 「…そうだな、停電だし」 察したのか、レイがぽつりと感想を漏らす。 答えてはみたがそれ以上話が広がらずに再び静寂に包まれた。 何で自分はこんなところをうろついているんだろうか。 意図せずともため息が漏れた。 「…お前も…意外と優しいな。付き合ってやるなんて」 声に隣へ頭を巡らせると、階段の上を向いたままのレイがどうやら笑みを浮かべている。 気を使われてしまったのだろう、ヴァレンジアも笑って答えた。 「こんな遊び、もう何年もやってないからな。たまにはと思って」 「やったことあるのか?」 「そりゃ、子供の頃なら誰だってやるんじゃないか?」 それもそうか、と笑い声を立てるレイとともにラボラトリのある階に足を掛ける。 心なしか嫌な薬の匂いが普段よりも漂っているように思うが、無視して先へ進み続けた。 「開けるぞ」 一言声をかけてラボラトリのドアを開くと、顎の下から光を受けたDjangoがにやついていた。 とりあえず脅かそうとしているようだった。 つまらなさに閉口してから、これは遊びだと思いなおして一応声を立てた。 「わぁ」 「…傷ついた。心に深い傷を負った」 デスクに額をついてさめざめと泣くDjangoを無視して中に入る。 レイも後に続いて入り、几帳面に扉を閉めたために立てた音が暗い部屋に響いた。 「なんだよ、ヴァレンとレイか。つまらんなァ」 「つまらなくて結構」 「楽しもうよ〜もっとこう、心をぱかっと開いて!!」 「お前は開きすぎなんだよ」 軽口を叩くDjangoからレーションを受け取ってレイに目配せする。 とっとと帰るぞ そうドアを示すと、レイも頷いて踵を返す。 閉めかけたドアの向こう側から“もっと怖がれ!!”といういらぬ忠告が聞こえた。 帰りも帰りで何も話すことが無く、黙って先行する。 いつもは何かとうるさい面々と共にいることが多いため、こう静かな相手だとなんだかほっとする。 笑って話す、ということに長けていないのは常日頃から理解していたが、今まで治す気にはならなかった。 しかしさすがにここまで静かだと気まずいような気もしてくる。 意を決して振り返り、無理に作った笑顔でレイに何か話しかけようと口を開きかけた。 が、背後には誰もいなかった。 「……あ?」 ラボラトリを出たときには一緒だったはずだ。 ドアを閉めたのはレイなのだから。 なのに後ろにあるのは絨毯と暗い廊下だけだった。 レイが極度の…そして驚くべきほどの方向音痴だとは聞いている。 しかしここは住み慣れたはずのアナグラだ、まさか迷うはずはないだろう。 懐中電灯で照らされた道があるのだし。 多分早く帰りたいオーラを全面に出しているヴァレンジアに気を使って、 何も言わずにトイレにでも行ったのだろう。 「…まぁ、1人で帰れるだろう」 多少の不安はあるにしても、レイも大人だ、大丈夫だろうと納得して階段を下り始めた。 「おかえりなー…あれ?」 ホールで出迎えた面々が1人で帰ってきたヴァレンジアを、顔をしかめて出迎えた。 レイがいない。 面倒くさそうにレーションと懐中電灯を受注カウンターに置いたヴァレンジアに視線が集まった。 それにものともせず、複数の目を見返してあっさりと答える。 「いなくなった」 「…おい…」 「ラボを出るときはいたんだが…いつの間にか」 いつの間にか、という言葉にミツキと角治郎がざわりと反応して顔を合わせた。 2人は同じ結論に至っているようだ。 「アナグラ七不思議…神隠し…!!」 「はぁ…?」 ただの迷子だろ、と結論付けたが、複数の顔によぎった不安は見て取ることができた。 それでも肝試しは続行された。 これは遊びなのだから。