〜アミエル・レリックチーム〜 「えーっと、次は4番、私かー」 「と、俺だな」 レイが行方不明になることは慣れっこではあるが、肝試しというだけで不安にはなる。 しかしやはりいつも通りなため特に捜索するなどという者は現れず、続行することとなった。 アミエルが手元の番号を懐中電灯で照らして読み上げるとレリックもまた紙をちらりと見ながら進み出た。 4番手はアミエルとレリックだ。 「レリックさん、気を付けてくださいね…」 「てめぇに言われずとも問題ねぇよ」 「なんだよう、ふーんだ!!」 角治郎とレリックが口げんかをしながらも、楽しくなってきたのか口元が愉快そうに上がっている。 あのヴァレンジアでさえ何かおびえながら(のように見えた)帰ってきたのだ、ただでは終わるまい。 これがアナグラだ。 「では、4番、出発ですっ」 「行ってらっしゃい」 りんとシキが進行を放棄したミツキたちの代わりにかけた合図で2人はゆっくりと暗いアナグラへ進みだした。 「…つってもよぉ、今んとこサドのなまっちろい顔に驚いたミトと迷子のレイしかなんも起きてねぇよなァ。  やっぱいねぇよ、そーゆーアレはよぉ」 「あるぇ、レリック、実は幽霊とか怖がるクチ?」 「ばッ…!!ねぇよ!!ユーカリの本気いたずらの方が怖ぇよ!!」 「あ、信じてはいるんだ」 マイペースに先行するアミエルに一本取られてレリックが肩を落とす。 正直信じていないわけでもなかった。 日本にはオボンという、霊たちが実家に帰ってくる奇妙な行事があるというではないか。 この国には何かいるに違いない。 慎重にやたら靴音の響く階段を上り始めた。 「ラボのDjangoさんとこだよね?…あそこ、医務室あるし、不気味なんだよなー…」 「あのヒワ医者の方が不気味だと思うがな」 「うわー言ってやろー」 普段めったに使わない階段を上っていると、なんだかアナグラではないような感覚に襲われる。 周囲も暗く風景が見えにくいとなるとなおさらだ。 しかしアミエルのきゃっきゃとはしゃぐ声に少し勇気づけられながら上るうちにラボラトリのある階に到着した。 アミエルが懐中電灯を持ってすたすたと先を歩き、レリックが警戒しつつも後を追う。 通路は長くはないが人気もなく、しかも薬の臭いが漂っている。 レリックはなんだか夜の病院を思い出して慌ててアミエルに追いつこうとした。 「お疲れちゃーん。これ、レーションな」 「お前も暇だよなぁ…んな事に付き合ってやってるなんてよぉ」 「楽しいのよ?これで」 ラボラトリに着くと暗がりにDjangoが迎え、レーションをひとつレリックに手渡した。 Djangoはアミエルがそれを見て指をくわえたのを見逃さなかった。 彼女に持たせるのは懐中電灯だけ─食べられない、懐中電灯である─にしておいた方がいいと踏んだのだ。 理解した印にレリックが目配せをすると、Djangoが頷いてからうひひ、と奇妙な笑い声を立てた。 その青白い顔を浮かび上がらせる医者は本当に不気味に見える。 なんだか背筋に寒気が走った。 「…アミエル、さっさと戻るぞ」 「そうだねぇ。私お腹空いちゃったよ」 「行きはよいよい、帰りは怖ぁい」 「黙れヒワ医者!!」 レーションをズボンのポケットに突っ込むと、早々とラボラトリを出る。 背後からの脅しは聞かないことにした。 「…にしても…あいつ、ミツキやら角治郎以上に楽しんでなかったか…?」 「…むー…」 「大人げねぇというか…まぁ、参加してる時点で俺も同類か」 「む〜ん」 「つか、レイはどこ行ったんだろうな。こんなところで迷子になるはずが…」 ぐるるるるぅぅぅ… レリックの背後から低く聞いたことのない音が響いて言葉を止める。 獣の鳴き声のような、とにかく人の声ではないのは確実だ。 後ろを振り返るが懐中電灯を持って何やら思いに耽っているアミエルしかいない。 ぐぅぅぅぅぅぉぉぉぉ… 誰かァ……助け…… 「!!??」 再度その化け物の鳴き声(のようなもの)が聞こえた刹那、どこからかレイの声が聞こえた。 助けを求めているようだ。 響く鳴き声、レイの悲痛な声。 ぐぅぅぅぅぅぅぅ……ぐぅぅぅぉぉぉぉぉ…… おぉぃ……誰かァ…… 「…アミエル、何か聞こえないか?」 「…むふ〜ん…」 「…さっきからそればっかり…ハッ!!まさかヒワ医者の呪い的な?!イギリスには魔女もいると聞くし?!」 「むわ〜ん」 「それともこのぐーぐー聞こえるのは化け物の催眠かッ?!」 ぐぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉぉ……ぐるるるるるるぉぉぉぉぉ…… いないのかァ……誰かァ……… 「これは…ぐーぐーお化け…!!!だめだ、レイはぐーぐーお化けに捕まったに違いない…!!  このままだとアミエルも俺も食われちまう!!いかん!!走るぞ、アミエル!!!」 「あむ〜ん」 混乱しだしたレリックがアミエルの腕を掴むと、全速力で廊下を走り出した。 階段までもう少しだ。 一気に廊下を駆け抜けると階段の手すりを握り、アミエルを引きずるように駆け降りた。 しかしアミエルは未だ考え込んでいるのか催眠にかかっているのか、されるがまま申し訳程度に足を動かしている。 降りても降りてもホールに着かない錯覚にも陥るがたかが数階である。 レリックは未だ響く鳴き声を無視し、ぬいぐるみを引きずるようにアミエルを引っ張ってホールへと飛び出した。 「お帰りなさーい…って、あれ、レリックさん滝汗」 「で、出たんだ…!!ぐーぐーお化けだ…!!」 「なぁ?何言って…」 レリックが帰るなり男たちの輪に入り、化け物の鳴き声(?)を力説した。 レイが神隠し(?)にあったこのタイミングだったせいか、皆が息をレリックの話に息を飲む。 聞こえるレイの悲鳴、廊下に響くくぐもった鳴き声。 まだ順番の来ていない蒼、麗音、柾、ミツキ、角治郎がひぃ、と声を漏らして警戒するようにあたりを見回した。 「とりあえず、気をつけろよ…!!」 「お…おう…!!」 頭を寄せ合った男たちはごくりと生唾を飲み下した。 「どーだったぁ?」 ミトがきゃっきゃとアミエルに抱きついて無事の帰還を喜んだ。 それに応えたアミエルは指をくわえて反対の手で腹をさする。 察したミトとりんとシキが笑いながらレーションの一つをアミエルに手渡した。 「ずっとこれの匂い嗅いでたから、お腹鳴りっぱなしだったよぅ」 懐中電灯をシキに手渡すと、夢中でレーションを食べにかかった。