青いその液体は髪の色に似ていると思った。 「っじゃーん!!見て見て!!」 角治郎が突き出したガラスの瓶には大きくHQと書かれている。 綺麗な海のような水色がきらきら光る。 ミツキはそれが何なのかわからないようで首をかしげた。 「なにそれ」 「わかんない!!」 元気よく答えるとミツキががっくりと肩を落とした。 そんなことは気にせず、グラスをテーブルに並べる。 これが確実に飲み物だということはわかっていた。 「どっから持ってきたんだ?」 「喜之助さんとこ。綺麗でしょ?ちょっと飲んでみたくてさ」 「見つかったら怒られるぞ」 「大丈夫、ちょっと飲んですぐ返しに行くから」 躊躇なく線を開けてグラスに少しずつ注ぐ。 本当に綺麗でしばし2人で見惚れてしまうほどだった。 香りをかいでみると、なんだか甘いフルーツの香りがふわりと漂う。 氷をたくさん入れたためにひんやりとした冷気が頬を掠めた。 よくわからないが、甘い物なら大歓迎だ。 「はい、これ」 「…サンキュー」 持ち主が持ち主のため未だ踏ん切りがつかないのか、ミツキがじっとグラスを見つめる。 宝物を見つけてそれを見せびらかすような気分の角治郎は辛抱強く待った。 しばらくすると2人の悪戯っぽい目があい、同時ににかりと笑ってグラスを軽く打ち合わせた。 溶けた氷を2度たしなおした辺りから、ふわふわと世界が揺れてきたことに気づく。 甘い、キウイのようなそれは予想を超えておいしくて、少量ずつとはいえ何杯か飲んでしまった。 戻しても喜之助にばれるような気がする。 サングラスの奥にあるミツキの目もふらふらと揺れている気がする。 というか、自分が前後左右に揺れていた。 「…なんか、おかしいよね」 「じろー、ちょい、瓶見せて」 手元にあった瓶をどうにか持ち上げてミツキに手渡す。 落としてしまわないか少し不安に思うほどにうまくいかなかった。 「…最初から薄々思ってたけど、これ、お酒だよなぁ?」 「はははやっぱりぃ?」 「気づいてたんかーい」 何が面白いのかはよくわからないが笑いが漏れる。 それを見てミツキも笑うが力がない。 左右に揺れながらミツキの持つ瓶を覗き込むが、書いてある横文字は角治郎に解読できなかった。 口をへの字に曲げてミツキを見つめる。 自分にはできないことがこの悪友にはできると思うと、なぜかちょっと寂しくなった。 「んーんー…ひ、ひぷの、てぃっく」 「ヒプノティック?」 「なんて意味だったっけなァ…忘れた…」 「お酒の名前に、意味なんてないでしょぉ」 「かなぁ?」 瓶をくるくる回しながら周囲に描かれた横文字を読みあげる。 ちんぷんかんぷんなその言葉がミツキの口から出るのが悔しい。 角治郎はグラスをテーブルに戻し、手を伸ばした。 ミツキの目の前で手をひらひらさせて顔を上げさせ、そのまま人差し指だけをぴん、と立てて鼻筋へ移動する。 かちりと音がするサングラスのブリッジに指をひっかけると簡単に取り上げることに成功した。 「…へへー…」 にやりと笑いかけると、きょとんとした目がみるみる見開く。 ああ、この酒は髪よりも目の色に似ているかも。 「みっちゃん、やっぱ取った方が、かわいーよ」 「うれしくないし」 「かわいーかわいー」 「か、返せよぉ!!」 ぶんぶん振って逃げ回る角治郎の腕をミツキが奪って取り押さえる。 手首を引っ張り自分の胸元で抱きしめて、サングラスを持つ手を開かせようと奮闘し始めた。 しかしお互いふらふらしていてうまくいかない。 ケタケタ笑って逃れようとする角治郎をミツキが思い切り引っ張った。 「うわァッ」 「うわッ?!」 踏ん張りのきかない状態で思い切り引っ張られたために勢いづいて倒れこむ。 とっさに手が出ず、そのままミツキを巻き込んでソファへ押し倒して時間差で甲高い悲鳴が漏れた。 くらくらする目をしばたいて焦点を合わせると、至近距離に青い目が映る。 なんだかフルーツの香りが漂っている気がするくらいに酒に似た青い目。 「…みっちゃん、甘そー…」 「甘くないし」 「わかんないよぉ?意外と甘いかも」 額がごつんと当たるまで顔を近づけて瞳に見入る。 長い睫がぱたぱたと揺れていた。 近づけば近づくほど本当に甘い香りがして思わず鼻をくんくんと動かす。 常日頃から、角治郎は甘い香りを探し当てるならだれにも負けない嗅覚を持っていると誇っていた。 やはり、ミツキは甘い香りがする。 「…やっぱ、甘いって」 「お酒のせいだろー」 「そっかー…」 本当に甘い香りが漂っているとすればその通り、先ほど飲んだ酒のせいだろう。 だとすると、甘いのは目ではなく、 Hyp・not・ic 催眠薬 催眠術にかかっている人 角治郎は耐え切れずに口をあんぐりと開けた。